7. 【地】ゲームの開始と幼馴染

 謎の声は、地球上に灰化の他にもう一つ大きな変化をもたらせた。


 異世界の様子を複数の媒体で閲覧することが出来るようになっていたのだ。


 まず、世界的に有名な複数の検索サイトに、配信サイトへのリンクが自動的に貼られていた。


 そのサイトへ移動すると、異世界のとある少女の行動がリアルタイムで配信されており、アーカイブが一日ごとにまとめられている。しかも不思議なことに、オフラインでもすべてのコンテンツを閲覧できる。


 また、そのリアルタイム配信はテレビでも閲覧が可能である。というよりも、リモコンのチャンネル1が配信映像を映すように強制的に変更されていた。


 さらに、ゲーム機器でも閲覧が可能で、VRゴーグルがあれば配信映像をVRで視聴することが出来る。


 電子機器や家電が普及していない地域では、家の鏡や湖にその映像が映されているとも言われている。


 世界中の誰もが、異世界の姿を見ることが出来るようになっており、生き残った人々は彼女のことを毎日のように話題にしていた。


――――――――


『どうか彼女を導いてあげてください』


 彼女にそのメッセージが届いたのは、灰化が始まった翌日。異世界配信の存在が広く認知され始めたころのこと。


 灰化の影響で高校が臨時休校となり、彼女は部屋で一人、昼過ぎだと言うのにご飯も食べずパジャマから着替えることも無く焦点の定まらない眼で虚空を眺めていた。彼女の体からは生命力というものを全く感じられず、このまま消え去ってしまうのではないかと思える程の状態だ。


 それも仕方のないこと。


 彼女は少し前、幼馴染の大親友を事故で失ったのだ。


 高校一年生の春休み。彼女の幼馴染は家族旅行で山奥の温泉旅館に泊まりに行った。彼女のスマホには旅行先から綺麗な景色や美味しそうな料理の写真が送られ、幼馴染が満喫している様子が分かり、自分のことのように嬉しかった。


 だが、その帰りの山道で、幼馴染の父親が運転する車が対向車線を大きくはみ出した観光バスに衝突し、谷底へと落ちてしまった。


『……ちゃんっ……どうしてっ……うわあああああああああああああああああああああん!』


 通夜と葬式で一生分泣き尽くした彼女は、4月になり高校が再開した今でも親友を失った悲しみから立ち直ることが出来ず、無気力にただ生きるだけの生活を続けていた。


 とはいえ、このままでは両親に心配をかけてしまう。せめて用意してもらった昼食くらいは食べておかないと、と考えベッドから立ち上がった時、突然机の上に置いてあるノートパソコンが起動した。


「……?」


 机に近寄り、ノートパソコンの電源をオフにしようとしたけれども、なんとなく少し触っておこうと感じた。Webサイトを開き、昨日の灰化についてでも調べてみようかと検索サイトを立ち上げてみると、そこには見たことのないリンクが張られている。


「……?」


 大手サイトだからクリックしても別に問題ないだろうと、軽い気持ちで考え無しにそのリンクをクリックした彼女は、衝撃を受けることになる。


「キヨちゃん!」


 そこでは亡くなったばかりの幼馴染、江波えなみ清香きよかの姿が配信されていたからだ。


「キヨちゃん!キヨちゃん!」


 彼女が動く姿を見て、枯れ果てたと思った涙がふたたび溢れてくる。涙で画面が見えなくなるけど、涙をぬぐって画面が見えるとまた涙が溢れてくる。何度も何度も涙をぬぐって、ようやく収まってきた時、パソコン画面の右下に小さくメッセージがポップアップしていることに気付いた。


『どうか彼女を導いてあげてください』


 世界に謎の声が響き渡り、灰化という現象が猛威を振るい、何故か死んだはずの親友が画面の向こうで元気に動き回っている。この異常事態でもらったこのメッセージが、意味を持たないはずがない。


 彼女はそのメッセージを恐る恐るクリックした。


「……?」


 メッセージはすぐに消え、画面が更新される。

 再表示された画面の何が変わったのかすぐには分からなかった。更新前とほとんど同じ見た目なのだが、良く見ると一か所だけ小さな変更がなされている。


「これって……」


 親友が動き回っている画面の配信映像。その下には音量ボタンや画面サイズ切り替えボタンなど、動画視聴用の機能ボタンが用意されている。そこに先ほどまでには無かったボタンが追加されていた。


 マイクボタン。


 それが意図することを理解した彼女は、期待を込めてボタンを押した。


『うわっ!なにこれ、ウサギ?』


 画面の向こうで自分の髪色と同じ小さな金色のウサギが宙に出現し、親友は突然のことで驚き戸惑っている。


『可愛い……あなたお名前は何て言うの?』


 もしマイクボタンが、彼女の想像通りの機能だとするなら……


「レオナ」


 この言葉が届くはずだ。


『……ウサギさんしゃべれるの!それにレオナって私の友達と同じ名前だよ、偶然だね!』


 違う、偶然なんかじゃない。今話しかけているのは紛れもなく、本人だ。


「キヨちゃああああああああん!」

『え?え?』


 異世界を救う使命を与えられた江波清香を導くために、鈴木レオナは失われたはずの親友に再会した。

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