おうち時間~さすらい編~

マサユキ・K

第1話

私の名は千夜狐零人チヨコ レイト

人は私の事をさ……

「マスター、マスター!」

「な、なんだシロップ?大事な決めゼリフさえぎって……」

「KAC2021が始まりました」

「ん。そうみたいだね」

「今回はチカンがジョークを言うらしいデス」

「いや、それを言うなら今回は時間が勝負らしいだろ」

「だから余分な言葉はすべてカットです!」

「なるほど。それでさっきから会話文が続いてるんだな」

「まるでハンザイですね。ハハハ」

「いや、犯罪じゃなくて漫才ね……もういいから、今回のお題を教えてくれないか」

「おうち時間デス」

「なるほど。旬と言えば旬のテーマだな」

「どんなお話にしましょう」

「おうち時間で僕らに関係した事と言えば、やっぱり料理だろ。日頃作ったことのないスイーツに挑戦するとか」

「それなら得意デス!」

「言っとくけどリンゴ胸に乗せて【アップル・パイ】なんてのはダメだからね」

「チッ」

「いや、やる気だったの!?ちゃんとしたレシピで頼むよ」

「ジョークです。実はもう作ってあります」

「え?早いな」

「マスター、味見お願いします!」

「出たよ……まあ、不安はあるけど分かったよ」

「やた♪」

「あと悪いんだけど、会話文だけじゃ口がだるいので間に文章入れていい?」

「ゆるす」

「いやに上からだな。まあとにかく出してみてよ」

「分かりました。ではまず一品目」

そう言ってシロップは調理台に蓋付き皿を置きました。

「本格的だな。中身は何?」

「ドドド……ジャーン!」

威勢よく開いたお皿の上に、器に入った黒い物体が乗っていました。

「これは……?」

「チョコムースです」

「すごいな。よく作れたね」

「チョコレートは難しいので市販のものを使いました。あとは手作りです」

シロップの期待に輝く目に押され、私は恐る恐るスプーンを口に運びました。

「ん……甘いのは甘いけど……なんか違和感あるな」

「ダメでしょうか……」

「ちょっと歯応えが強いかな……どうやって作ったの?」

私の問いにシロップは手順を説明し始めました。

「卵を卵黄と卵白に分けてメレンゲを作りました」

「君の得意なやつね」

「左右の手で卵黄を移し替え、もう左右の手で卵白をホイップしました」

「なんかややこしいな。腕が四本だと説明もしにくい」

「五秒でメレンゲが完成です」

「はや」

「手の角度はこれくらいで、スナップをきかせて……」

「いや、メレンゲは分かったから次いって」

「チョコレートを湯せんにかけました」

「お、偉いね。レンジは使わなかったんだな」

「【湯せん】と【温泉】と似てますね」

「なんだ突然?」

「どっちも……なんチって♪」

「いや、今はそういう上手うまいのいいから……次は?」

「とけたチョコに卵黄を入れて混ぜました」

「ふむふむ」

「次にメレンゲを入れて混ぜました」

「ふむふむ」

「後は冷蔵庫で冷やして完成デス!」

「ふーん。手順は合ってるんだけどな……」

チョコムースの作り方にも色々あって、シロップのものは一番簡単なやつです。

美味しくなくはないのですが、口当たりがイマイチです。

「ちなみにメレンゲ加えてからどんな風に混ぜたの?」

「メレンゲと同じです……素早く、パパパっと」

その言葉に私はピンときました。

「それだ、原因は」

「何ですか?」

だよ」

不思議そうな顔のシロップに私は説明しました。

「メレンゲを加えて混ぜるときには、できるだけ気泡を潰さないようにしなきゃダメなんだ。生地にたくさん空気が入った方がふんわり仕上がるからね。君のシェイクスピードだと恐らく気泡は全部潰れてしまったんだろう。だから歯応えが強くなった」

見る見るシロップがしょんぼりするのが分かりました。

「でも大丈夫!いい方法があるんだ」

そう言って私はシロップの作ったチョコムースをそのまま冷蔵庫の冷凍室に入れました。

「マスター、それは……?」

「ムースがダメならアイスにすりゃいい。これなら歯応えも関係ないからね。しばらく経てばチョコムース・アイスの完成だ!」

私の言葉にシロップの表情がパッと明るくなりました。

「さすがマスター。大好きデス!」

「いや、だから毎回抱きつくのはヤメテ……」

「一緒に【湯せん】でとろけましょう♪」

「いや意味分からんし、やめろー!!」


皆さんもおうちでスイーツ作りいかがでしょうか。

以上、さすらいの異世界職人でした。

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