ランス王子から迫られてしまいます
私は病に侵された王国民の治療を始めました。どうやらこの王国には魔法があまり発達していない様子。
ですので、回復魔法は相当に高等な魔法に分類されるようでした。今この王国にいるまともな使い手は私くらいです。
これでは王国に疫病が蔓延するのも納得でした。私は国王のお触れにより集められた人々の病を回復魔法で回復させていきます。
「すごい数の人達です」
長蛇の列が続いていました。最後尾がどこまでかわからない程です。ともかく一人ずつ治療していかなければなりません。
回復魔法も無償の産物ではありません。それなりに精神力を必要とするものなのです。
「はい。治療が終わりました」
私は治療を終えた患者に告げます。
「なんと! あれほど苦しかった咳を全くしないではありませんかっ! ありがとうございます! 聖女様! いえ、大聖女セシリア様!」
そう言ってお爺さんは喜んできます。
「お元気になられたのでしたら何よりです」
喜ばれるのは嬉しい事です。ですが同時に私の精神力も消耗されていくのです。
結界も張るのも同様です。やはりキャパシティには明確な限界というものが存在します。
「国王陛下、申し訳ありません。今日はこれくらいにしてください」
全員を癒してあげたいのはやまやまなのですが、どうしても限界というものが存在します。
「うむ。わかった。並んでいる皆の者! 今日のところは帰ってくれたまえ! 後日またセシリア様の都合の良い時に治療を再開しようではないかっ!」
国王陛下にそう言われ、多くの国民達は帰って行きました。
◇
「はぁ~……」
多くの国民達を癒した結果、私は相当疲れました。やはり自分自身を癒すのに魔法は存在しないようです。自然治癒を待つばかりです。
「疲れているようですね。セシリア様」
「ランスロット王子」
池の近くのテラスで休んでいる時の事でした、ランスロット王子が私の目の前に現れます。
改めてみてもかっこいい見た目をした素敵な王子様です。誰がみてもそういう印象を持つことでしょう。黄金のような金髪に白い肌。そして白い歯。雰囲気からも優しさがにじみ出ています。
「セシリア様はおやめください。ランス王子。あなた様のような気高い王子から様付けされるのは気恥ずかしいです」
「けど、セシリア様だって元々は隣国の王女でしたんでしょう? だったら僕と同じ王族としての立場のはずです」
「いえ、それは元々の話です。追い出された私は王族との関係を絶たれたのです。今の私は王女ではなく、ただの元王女です。平民と大して変わりませぬ」
「そうはいいましても、あなた様が今我々の国の大聖女である事に変わりはありません。あなた様の活躍によって我が国の国民が多く救われているのです。僕もその救われたうちの一人なのです。敬意を払うのは当然ではないでしょうか?」
「私が呼び捨てでいいと言っているのです。ランス王子」
「では遠慮なくセシリアと呼ばせて貰いましょうか」
「ランス王子。この前の事でお聞きしたい事があります」
「この前の事?」
「私にいきなり求婚してきた事です。いきなりの事でびっくりしてしまいましたが、あれは何かの気の迷いですよね? 命を救われたから。命が助かった事に対してつい気分が盛り上がって、あのような発言をされたのでしょう? そうに決まっています」
「そう思われていたのなら残念です。僕は本気なのに」
「えっ!?」
「確かに、僕のただの一目惚れだったかもしれません。ですが噂には聞いておりました。隣国リンカーンに素晴らしい聖女様がいらっしゃると。実際に一度会って話してみたかったのです。そして一目みて確信を持ちました。この人こそが運命の人だと」
「う、運命の人って……そんなっ」
ランス王子は強い瞳で言ってきます。その目に嘘や虚言の色は一切見られません。心底そう思っていらっしゃる様子でした。
「国民を癒しているあなたの献身的な姿を見て、ますますその心の美しさが見えたのです。そしてますます確信を持ちました。セシリア、あなた様こそが僕の運命の人だと」
「そ、そんな急に言われましても……私としても聖女としてこの国に雇われた以上、まだ責務があります。お気持ちは嬉しいのですが……」
こんな素敵な王子様に迫られ、見つめられると心臓のドキドキが止まらなくなってしまいます。
「今すぐにお答えを欲しいのではありません。大聖女セシリア。あなたにはあなたの仕事があるでしょう。僕は王子としての立場からその仕事を全力で応援します。そして然るべき時が来たらでいい。返事が欲しいのです」
「わかりました……聖女としての仕事が終わりましたら。その時は」
――その時、私は彼になんと返事をしていいのか。その時にならなければわかりません。
私とランス王子の関係がどうなっていくのか、私達自身にもわからない事でした。何にせよ忙しくも充実した毎日を過ごせそうな、そんな予感だけがしていました。
こうしてその日も一日過ぎていくのです。
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