第10話  誓い、不語の聖騎士

 煙草の吸い殻を投げた馬車は、恐らくあの司祭長が乗っていたモノだったのだろう。


「臭っ」


 人が焼ける独特の臭い。髪の毛のタンパク質からくるものだったか、よく覚えていない。ナターシャに仕掛けてもらったの炎の魔石はあのデブ司祭長が馬車に乗った瞬間。その衝撃で爆発したのだろう。馬には可哀想なことをした。


 そのまま、王城へ向かう。道中、司祭長の館の方を見るとナターシャの魔法だろう。極光が放たれ、人の焼ける臭いが濃くなっていた。


 見えてきた王城。その門は混乱で開かれたまま。教王を守らず、腐敗の原因たる司祭長の方へ衛兵の人員が割かれ、肝心の王城を守っていないのはこの国の限界具合を表してる。


 しかし王城内は簡単にはいかない。城内には忠義心、誇りを胸に抱いた近衛騎士団が巡回している。未だ幼き君主を守ろうと死に物狂いで戦う戦士達。彼らは後に使える手駒になる。ナターシャに確認をとったとこ、彼らは家柄で選ばれた訳では無い正規軍選りすぐりの精鋭。


「さぁ、ウィル」


 私の聖騎士に向き直る。

 無骨な鎧。バケツようなの兜で表情は分からない。


「君には一つ、制限を課す」


 彼は奴隷か? いな

 ただの暴力装置か? いな


「この戦い、誰一人殺すな」


 彼は英雄。

 私の聖騎士。


「困難だろう。簡単ではないだろう。たくさん傷つくだろう」


 兜の覗き穴、見えるのは澄んだ黒瞳。


「だが、君は聖騎士だ」


 ウィルはメイスを地に突き、まるで騎士像のような構えをする。


「悪しき者はねじ伏せろ、善なる者を慈しめ」


 私は、もう間違わない。


「例え、その道が神の教えに反しようと私が君を祝福しよう」


 彼のメイスのつかに触れる。


「祈るな、願え」


 目を見て、微笑む。


「私が叶えてやる」


 装飾の施された重甲冑を着た騎士達が来る。

 丸みを帯びた兜。片掛けの近衛騎士団の紋章布。大盾、槍持ち。中盾、直剣。装備は統一。洗練された軍隊としての動き。


「ーーーーーーーーーッ!!!!!」


 声なき、咆哮ほうこう

 銃弾がその尻を撃鉄で叩かれたが如く、猛進。ウィルの踏み込みで、石畳が砕け、飛び散る。


 先頭の騎士がウィルの蹴りで吹き飛んだ。胴の板金鎧がへこんでいるが気絶だけで済んでいる。


 何人かの騎士が、ウィルが振り回したメイスで側頭部を殴打され意識を失い、倒れる。


 後続の騎士に、対して、左手を引いてウィルは構える。騎士の一人が槍を突き出す。かわし、鋼鉄の左拳を脇腹に打ち込む。鎖帷子で打撃は防げない。腹を押さえ、また一人倒れる。


 ロングソードがウィルの背後から振り下ろされる。振り向きざま、鋲付きベルトを巻き付けた左裏拳で弾く。蹴りを入れ、また胴鎧をへこませる。


 三人の騎士が、ウィルから離れた位置で補助祭具たる手鐘ハンドベルを手に持っている。


「あ、まずい」


 流石に、手を貸そうとポケットに手を突っ込む。


「「「我が主に奉る。我ら怨敵を滅さん。ここにいかづちを!」」」


 詠唱。魔法は典型的な奇跡。

 まだ間に合う。


「ん?」


 ウィルは、詠唱中の騎士達を発見すると左拳を地面に向け構える。何かしようというのか。


 三人の騎士達から、雷が槍投げのように放たれる。


 瞬間、地面に向けウィルが拳を放つ。同時、鉄芯が腕の掌底から射出。火花を伴い、地面に打ち付けられる。その反動を利用。ウィルはその身を宙に浮かせ、雷をかわす。


「ハハッ、火薬槌パイルハンマーをそう使うか!」


 宙返り、一気に距離を詰める。並んだ三人の騎士の真ん中の鉄兜を着地と同時に盾ごとぶっ叩き、破壊。メイスを投げ、一人に命中。残りは右手で殴り飛ばされ気絶。頭突きをされ兜を破壊された者もいた。


「すげェ……」


 モノの数秒で、第一陣の近衛兵を無力化。左手を振り、煙を上げる鉄芯を格納。


「やるじゃん」


「ーッ!」


 満足気なウィルを率いて、玉座へと急ぐ。

 

 






 



 


 

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