第8話 テロ実行、声

 昨日、ナターシャの目的を明かし、真に彼女を仲間にした後。明朝まで飲んでいた。重いを左右に振り、酔いを覚まそうと試みる。宿から、裏の路地に入る。


「う~頭痛い」


「飲み過ぎですよ。はい、水です」


 リリーが皮水筒の入った水をくれる。


「んっんっん、ぷへーっ。ありがとう~」


 ついでに胸を掴もうと手を伸ばそうとして叩かれる。


「まだ酔いが抜けてないのですか?」


「私のはどうです」


 ナターシャが胸を反らしてくるが、


「鎧脱いで出直してこいや」


 板金鎧に兜と完全武装の出で立ち。今日、彼女にはやって貰うことがある為の格好。


「まぁ、さっきも話したけどもう一回確認」


「「はい」」


 二人の女の返事。これから私の命令で死ぬかもしれない二人の声。


「まず、炎の魔石の入手。リリーはコレをお願いしたい。商人の方はナターシャが話を通してくれてるんでしょ?」


「はい、昨晩使用人づてで手配するよう連絡しました。しかし、魔石のサイズが問題だったようで、朝までに用意できなければ一家皆殺しにすると脅したら用意しました」


「方法が邪悪過ぎるんよ……」


 普通なら、の入手先は口封じするものだが今回はその必要は無い。私達がやったのだと、知らしめる意味も有るのだから……


「……やらなきゃ」


 転生前と一緒だ。

 誰かの為にと、争いを生んでる。


 でも、今回は違う。武器商人だった頃、世界の歯車でしかなった私には何も出来ず、敵の姿すら分からなかった。今は少しマシなくらいには、力がある。


 方法は多分、間違ってる。でも私は、こんな方法しか知らない。


「一番の問題は司祭長かぁ……」


 この国の実権は権力関係上のトップ、教王が握っているわけでは無い。教王は未だ八歳の少女。それを傀儡かいらいとして、実質的に政務を行っているのは司祭長。摂政、もしくは後見人としてご覧の有様といった腐敗政治を展開。


 因みにリリーはこの司祭長の侍女として持っていかれそうだったとこを私が引き抜いた。


「リリーはあのおっさんに会いたくないだろうしね」


「……あの時は本当にありがとうございます」


 自身の抱くように、震えるリリー。あのまま司祭長の元に行っていれば、聖娼の名の下にあのクソじじいの慰み者にされてたのがオチだろう。


「見た目も心も汚いおっさんだ。遠慮無く殺すぞ」


の聖女の初仕事だ。


「ナターシャはリリーから魔石の受け取ったら司祭長の設置をお願い。爆発を合図に、こっちも動くから」


「仰せのままに」


 簡易礼をする騎士姿は様になってる。


「私は今からウィルのとこに行く。彼と一緒に教王陛下を奪還する」


 凱旋する英雄は、彼にこそ相応しい。


「ナターシャ。君を単身で、戦わせる事になる。大丈夫?」


「ご心配には及びません。でも、良いのですか? 司祭長も直接私が手を下せばよいのでは?」


「あぁ、それはね。いざって時の保険だから」


 転生前、邪魔な商売敵や武器規制派の要人を殺すとき。爆弾を使ったり、別組織の仕業に見せかけて殺してた。警察の目を誤魔化すためでも有るが、名指しで批判できない状況を作る事で挑発する意味合いもある。


「多分、ていうか確実に。今回やることで、他の聖女を時に回すことになる」


 私以外の六人の聖女。聖騎士だけで無く、独自の軍隊を保有する者もいるらしい。


「まぁ、いいよ。敵になるなら、殺すまで……よし、行こう」


 路地裏で三人、それぞれの方向に別れる。


 そうやって、殺し続けて大切な人も殺すのか?


 リリー、ナターシャどちらの声でも無い。自分自身に問いかけ続けてる声。精神的なものなのだろうが、転生してもこれだけは消えてくれなかった。


「いいや、その時は私の騎士様ウィルが殺してくれるよ」


 独り言を、呟く。


 大通りに出る。私の格好は普通の町娘といったもの。宿で、リリーと修道服から着替えていた。リリーの私服は可愛かったな。転生しても私の胸部平野はそのままに、しかしリリーの山脈があるから精神的には大丈夫。


「?」


 人混みの中、背中を突っつかれる感触。


「ーッ」


 振り返るとアギラートと同じ、薄い金髪の少女を連れた隻腕の少年がいた。




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