第32話 兄さんと妖精


はぁ、またトラブルだよ・・・



ダリルとノアールは、湖のすぐ側にあったソフトボール大の、発光する蕾の開花に成功するが、中には小さな人形の様な生物がいた!



ーーーーー


「なっ、兄さん、これって何なの?」


「ごめんノア、俺にもわかんないよ」


俺たちふたりはただただ困惑する


それもそうだろ! 花が咲いたと思ったら、中に人形みたいな生物が入ってるんだ、ホラーだぞ!



そんな事を思っていると、直径30センチはありそうな大きなお花の上で寝ていた小人が、「ん〜」と言いながら、目をこすって起き始めた


「ノア、一応バリアを張る準備だけしといてくれるかい?」


「兄さん、もうしてるよ! 」


こんな謎生物、何があってもおかしくないからな


「うん!さすがノアだ、じゃあコンタクトを始めるよ!」


ダリル兄さんはそう言うと、中腰になって花と目線を合わせて話しかける


「どうも、起きてますか? 話せますかぁ〜?」


ダリル兄さんの、心が落ち着くような優しくて爽やかな声が小人に届く


すると、おっとりと上半身だけ起こして、可愛らしく目をこすっていた小人が、こっちに気づいた


そしてダリル兄さんを見ると、ものすごい満面の笑みで


「ホロホロホローーー!」


と、声を出し、お花の上でピョンピョン跳ねながら、兄さんに必死に何かを訴えている


可愛えぇ〜〜!!


この小人さんは、葉っぱモチーフの衣装を着ており、髪の毛は薄い銀髪のロングヘアー 目はぱっちりしていて完全にカワイイ系


そんな子が、物凄く必死にホロホロと言いながらジェスチャーをして、兄さんと意思疎通をとろうとする姿は、可愛いとしか言い様がない!


「それで兄さん、なんて言ってるのか分かった?」


「いや、必死に何かを伝えようとしてくれているのは分かるけど、残念ながら分からないよ」


だとさ


兄さんに分からないなら俺にもわかんないな


そこで俺は、父さんを連れてくることにする


「じゃあ兄さん、俺が父さんを連れてくるよ! 元冒険者だし、俺たちよりも色々詳しいだろうからさ!」


「うん、そうしてくれる? 俺はこの子を見てるから!」


兄さんにも賛同を得たので、俺は急いで父さんのいる丘の頂上へ向かう!



ーーー


「父さーーん!! 父さーーん!」


走って頂上まで来ると、父さんは俺がラグの横に作っておいた、プールとかビーチにある寝転がる椅子、ビーチチェア? サマーベッド? に、横になっていた


「ん? どうしたんだい? ノアがそんなに慌てるなんて珍しいね!」


俺の呼ぶ声に気づいた父さんは、起き上がり、俺の話を聞く準備をしてくれる!


「大変なんだよ! 兄さんが、兄さんがとにかく大変なんだ! 父さんも来て!」


小さな丘といっても湖から300メールはあるここまで、走って坂を登ってきた俺は汗だくになりながら父さんにそう伝える


すると、俺のそんな汗だくで息が上がった姿を見て、父さんは余程の緊急事態と勘違いしたのだろう


いや、緊急事態は緊急事態なのか? まぁいいや


父さんは汗だくの俺を抱き抱え、「案内しなさい!」


と言ってきた!


あ〜、ごめん父さん、そこまで急いでるわけじゃないんだよ…


かなり心配している父さんに悪いなと思いながらも、俺は花の場所まで案内した!



ーーーーー


「ダリル!大丈夫だったかい?」


先程の父さんの雷魔法を見た後だからインパクトは薄いが、俺を抱えた父さんは、ものすごい速度で坂を駆け下りて兄さんの所へ辿り着いた!


「あ、父さん! 良かった! ノアも伝言ありがとね!」


「うん!」


俺は兄さんに感謝されたので元気に返事をするが、父さんは少し放心だ


まあ、息子の命の危機かと思いとんできたのに、当の息子は笑顔でお花を見てるんだから放心するのも無理はない


だがやはりさすがは父さん


そんな放心もすぐに終わり、状況を聞いてきた


別に隠すこともないので、兄さんがこの花を見つけてから今に至るまでの経緯を細かく説明した!


「なるほど、それで私を呼びに来たんだね?」


「うん、父さんは冒険者だったから、俺たちよりも色々詳しいだろうからさ」


俺がそう言うと、父さんはだまって考え込んでしまった


そして一呼吸おき、この小人さんの正体を教えてくれた


「2人とも、多分だけどね、この子は妖精だよ」


そう聞かされ、兄さんは目を点にしている


「妖精? 本当に? 」


てか、今度は兄さんが放心状態だよ


そんなダリル兄さんの問に答えるように、父さんが説明してくれる


「妖精とは、物凄く貴重な存在でね? 本に書いてある通り、気に入った人と契約を結んでくれるらしいんだけど、そこら辺は私は専門外だからよく分からない」


妖精は、主と定めた者と契約を結ぶと、魔力が増大し、個体ごとに特殊な魔法を使えるようになる


と、そこまでは本なんかにも書いてある情報なんだけど


「妖精契約した者を契約者って呼ぶんだけどね、このドリス王国には公になっている契約者は2人だけ。

まあ王家のお抱えで、あと数人いてもおかしくはないけど、それくらい少ないんだ」


ドリス王国は、マーリス大陸と言う大陸の5大国のひとつ


そんな大国でさえ数人しか居ないって、契約者の確率やばいな


兄さんスゲェー!


だが、疑問に思うことがある!


「でも、その妖精がなんでこんなところにいるのさ!」


そんな貴重な存在が、なぜにこんな田舎の隅っこにいるのかよくわかい!


「妖精は、目には見えないけど、常に種のようなものが空を飛んでいるらしいんだ、そして、その妖精の種と適合する魔力を大量に浴びると、近くのものを依代に、何年物長い時間をかけて、自身を実態化させるらしいんだよ」



父さんはそう説明したが、適合する魔力を浴びる、この条件がめちゃくちゃ難易度が高いから妖精のカズが少ないのはまあ分かる


でも、この場所田舎で大量の魔力を浴びるって、それこそ魔法使い同士の戦いで使う魔力でも足りるかどうかといったところらしいし


一体どうし・・・あ


そう言えば、ここの湖と俺たちがピクニックしてるあの丘、父さんの昔馴染みの魔法使い数人で人工的に作ったって言ってたな


じゃあその時に漂っていた妖精の種が、運良くこの場所に定着して、10年以上の時を経て、今ちょうど実体化したと?


どんだけの確率だよそれ!


すると、父さんの説明を聞いていた兄さんは、妖精に


「俺と契約者したいの?」と聞いた!


すると妖精は、ブルンブルン首を縦に降って、嬉しそうに浮遊した!


妖精が兄さんの顔の前に来ると、兄さんは


「分かった、契約しよう!」


と告げると、 妖精の方から兄さんのおでこに自分のおでこをくっつけ、「ホローホロホロー」と、多分詠唱なのだろうが、それを唱えた!


直後、兄さんの足元に魔法陣のような紋様が光、直ぐに収まってゆく!


「え? 終わり?」


「ホロー!」



兄さんは唖然としているが、この日、ドリス王国に新たな契約者が生まれたのだった!

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