第30話 ノアール空を飛ぶ!
あ、ヤバい
炭酸ジュースを一気飲みさせたシア姉さんが、物凄い形相でこちらを睨みつけながら、むせている。
あれが治まったら、俺は確実に殺られる・・・
「ごめんよ姉さん! 俺は美味しいジュースができたから沢山飲んで欲しくてあんな事言っちゃったんだ! 決してわざとじゃッ!!」
ペラペラと口から出てくる言葉を並べて、あくまでわざとじゃなく、美味しいものが出来たから皆にも沢山飲んで欲しかった的なことを言い、謝罪をしてみるが、効果は無かったらしい。
「嘘つけー! 私が飲んだ時、アンタがめちゃめちゃニヤついてたのは知ってるのよぉ!!!」
そう言いながら、こっちへ全力で走ってきた!
助かったのは、大きな1枚のラグにみんなで円形に座っていて、シア姉さんは俺の対角線上に居たとゆう事だろう
中心には料理のお皿なんかがあるので、回り込んでくるしか無かった!
俺はその隙に、身体強化をかけてシア姉さんから距離をとる!
「ごめんって姉さん! もうしないから許してよ!」
「アンタはそう言ってどうせまたするでしょ! 待ちなさいよ!」
クソッ!
俺は後ろをチラチラと見ながら走っているが、恐らく姉さんも身体強化を使っているのだろう
とっていた距離が、一気に近くなってゆく!
「ああ〜!!! 姉さん! 今日はどうしちゃったの? いつもなら笑って済ませてくれるじゃんか!」
「うるさい! ノアみたいなイタズラっ子は放っておいたらダメと気づいたのよ! そんなことは良いから、とっとと止まって私の愛の拳を受け取りなさいよ!」
なっ!
本当に、今日のシア姉さんはなんか変だ、どうしちゃったんだ?
俺は逃げるが、このままだと捕まることは確実、どうすれば殴られずに済むかを必死に考え、1つ思いついた
うん、これしか無いな!
俺は家族が座っているラグの横に敷いてある、少し小さめのラグをサイコキネシスで手繰り寄せる!
ラグは猛スピードで俺の方へ向かってきて、姉さんの真横を通り抜けた!
「よし!やるしかないっ! 覚悟を決めろ!」
俺はそう自分に言い聞かし、こっちに来たラグへ飛び乗った!
ノアールはこの日、人目につかない田舎の片隅で、現代の人類史上初の快挙となる、魔法による飛行を成功させた!!
「ちよっ、ノア! なっ、空をっ・・・」
「「「「「「嘘っ! ノアが空飛んだ!」」」」」」
ふふっ!俺を追っていた姉さんだけでなく、そんな俺たちの様子を見て笑ってた皆まで、目玉が飛び出そうなくらい仰天していた!
ふはっはっは!
俺スゲー!! まさか成功するとは思わなかった!
やっぱり、人は窮地に立たされると成長するなっ!
俺はめちゃくちゃ難易度が高いこの飛行を成功させ、かなりハイになっている!
サイコキネシスの魔法は、対象物を魔力で覆い、対象物ごと魔力の塊を移動させる魔法だ
だがこれは、生物には適用されない
その為、足を固定していないスノーボードで、最高難度の雪山を滑り降りるくらいの難易度なのだ!
ノアはそれを、サイコキネシスと自身への身体強化、それと同時に、風魔法で空気抵抗を防ぐ事により、浮遊飛行を成功させたのだ
考えは単純、アラジンの空飛ぶ絨毯みたいなものだ!
だが、この世界でこの飛行法が発見されない要因はいくつかある
〇まず、無属性魔法その物の、価値の低さ!
都会でさえ、年間何件もの魔獣、魔物被害が出るようなこの世界において、魔法とは攻撃魔法のことを指すのが一般的!
その為、戦闘にほとんど役に立たない無属性魔法を、わざわざ生活の役に立たせるために練習する物好きは少ない
〇圧倒的魔力操作
この飛行法を成功させるには、ノアがやっているように、3つの魔法を同時に使わないと、まず無理だろう
これには、無詠唱で2つの魔法を行使出来なければいけない (身体強化は詠唱は無い)
だが、この世界で無詠唱で魔法を使える魔法使いは少なく、そのほとんどが、攻撃特化のエリートの軍人になる
彼らに繊細な魔法の同時発動と、環境に合わせて毎秒事に魔力を操る緻密なコントロールは出来ないのだ!
つまり、この飛行法は、ノアールが日々の生活で培った繊細な魔力コントロールとイメージ力、そして何より空気の抵抗まで考えれる知識により形になった物なのだ!
ーーーーー
「ちょっとノア! 危ないから早く降りてきなさい!」
シア姉さんの怒りは、俺が飛行した仰天によりかき消されており、今は本気で俺の事を心配しているようだ!
ふと思うと、確かに高い!
俺は上空7m程のところに停止していた!
だが、これが結構高く、シア姉さんの怒りが消えているし、怖いのでゆっくりとラグを動かして降り始めた
だがその時、空気抵抗を減らすための風魔法が、サイコキネシスと干渉し、ラグが煽られて斜めに傾いた!
「ヤバっ!」
俺は咄嗟に身体強化の強め、踏ん張ろうとするが、あまりにも咄嗟のことすぎてサイコキネシスに使う魔力を絞ってしまった
結果、俺は上空7mから自由落下だ!
「あ〜、これやばいな〜」
落下中、走馬灯ではないが、異様に時間がゆっくり流れ、頭は物凄く冴え渡る!
これが、人間が普段は30%程しか解放していない容量を使った結果なんだろうな!
俺がその、普段よりも冴えた頭で思いついたのは、下から強風を当て、少しでも落下速度を下げることくらいだった
下を見ると、シア姉さんが口も目も見開き、俺の落下地点に走っているのがわかる!
だが、確実に間に合わないだろうな!
俺はできる限り風の抵抗を受けれるように手足を広げ、下に風魔法を発動させようとした時、視界の隅にイナズマが見えた!
な、なんだアレッ!
青白く光る閃光は、スローモーションの世界を一瞬で移動し、俺の真下まで来ていた!
そして、一瞬だけ一気に眩しくなり、光は消え、誰かが上を見上げて立っている
「あっ!父さん!」
どうやら、父さんが魔法を使って助けに来てくれたらしい!
頭でそう認識した途端、だんだんと落ちる速度が上がっていき、見事にデイリス父さんの腕の中にズッポリと収まった!
「はぁ、ノア! あまり無茶しないでくれよ?」
「ごめんなさい、ありがとう父さん。」
お礼を言うと、父さんは爽やかな笑顔を一つだけ返してくれた。
ふー、それにしても、今のはマジで危なかったな!
これは練習が必要だ!
ノアールは、これくらいで魔法を諦めたりはしないのだった。
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