第27話 シアの思い
「着いたよ! ここが我が家のピクニックスポットだ!」
と、デイリス父さんが嬉しそうに言った!
話通り、いや、ここは話以上の場所だった!
少し小高い丘には色んな花が咲いており、斜面を色とりどりに彩っており、その麓には西から東へ流れる川の間にぽっかりと広がった湖がある
水は透き通るように綺麗で、ゆらゆらと揺れる水面に太陽の光が反射してピカピカと眩しい!
気温は25度くらい、暑いが耐えられないほどではないし、たま〜に吹く風が心地いい天気だ!
「本当にすごい場所だね!ここ!」
「ノアの言う通りよ! なんで私たちをもっと早く連れてきてくれなかっのよ! ねぇコウちゃん!」
「え?私? あ、えー?」
シア姉さんに突然話を振られたコウは、あたあたしながら言葉を詰まらせている
普段は毅然とした態度のコウにあんな表情をさせるとは
シア姉さんも恐ろしいな!
「ちょっとノア!どうゆう意味かしら?」
「え?何が?」
まずい、ここに来てテンションが上がってるからか、つい声に出てたらしい!
「何がじゃないわよ! コラ!待て!」
シア姉さんも多分テンションが高いせいだろう
普段はこんな事で追いかけてきたりはしないのに、今は全力疾走してきている
「ふふ、あの2人のあんな感じは懐かしいわね!」
「本当にそうね、シア、ふふっ!」
ーーーーーーーー
シア・センバート 2歳
「シアー、おっちおいで〜!」
「ね〜ね!ね〜ね!」
エルーナに呼ばれ、嬉しそうに歩いていくと、横から現れたダリルに抱き抱えられた!
「うふふっ! シアは可愛いね〜!このこの〜! 」
「あ、ダリルずるい! 私も〜!このこの〜!」
そう言いながら、2人はシアをくすぐる
「へへへへッ! に〜に!ね〜ね!やめてぇ〜!」
シアは当時、エルーナとダリルにベッタリの子だった
どこへ行くにもふたりと一緒、そんなシアを、エルーナとダリルもいつも可愛がっていた
そんな中、シアが3歳になった頃、弟が誕生した
ノアの妊娠中から「お姉さんになるわね〜!」そう周りの人達に言われていたので、「自分もエルーナお姉ちゃんみたいな立派なお姉ちゃんになる!」
それがシアの口癖だった
産まれたての弟はまるで妖精のように小さく、そして可愛かった!
ノアにとっては私が、エルーナ姉さんのように優しくて完璧なお姉ちゃんになるんだ!
シアはそう思っていた、だが中々そうはならなかった
生まれてきた弟は、半年ほどで言葉を理解しだして、直ぐにハイハイができるようになったあげく、魔法まで使ってしまったのだ
あれ?私はエルーナお姉ちゃんみたいになれてない
私はまだ全然魔法なんて使えないのに、なんでノアが魔法を使えるの?私がお姉ちゃんなんだから、ノアは私よりできちゃダメなの!
それからというもの、シアはことある事にノアに突っかかっては負け、ノアには内緒で努力してを繰り返しながらも時は経つ
それでも姉弟の仲は良く、ハールやチコチーニも連れて遊びに行ったりすることもよくあった
そんなある日、シアはノアに遊びに行こうと誘われたが、前日に突っかかってしまった手前、意地を張って行かなかったのだ。
その日、ノアはいつもなら帰ってくる時間に帰ってこず、文官や騎士団の人たち、街の人たちも総出で捜索し、伝令が来て飛び出て行った父さんが、ノアを連れて帰ってきた
体にいくつも擦り傷があって、何があってもピンピンしてそうなあのノアが疲れ果てグッたりしていた光景は、シアの脳に鮮明に焼き付いた
聞けば、いつもの3人で街を抜け出し山に入ったところ
オークに襲われ、命からがら何とか仕留めて来たという事だった
夕食が終わり自分の部屋に向かって歩くなか、シアは後悔していた
私は弟の命が危険な中、何をしてた?
思い通りのお姉ちゃんじゃないとつまらない事で意地を張って、今日私が一緒に行っていたら、絶対に街を抜け出すなんてさせなかった
もしかしたら、今日ノアは死んじゃったかもしれない
もう会えなくなってたかもしれない。
「シア? どうしたのよそんなに泣いて、大丈夫?」
シアは無意識のうちに廊下で立ちつくし、目には大粒の涙を流していた
そんなシアを見たエルーナは、心配で話しかけた
「ねえさ、ねえ…お、おねえぢゃーん! 私の、私のせいで! ノアが、ノアが〜…」
「ちょ、シア?どうしたの?」
「お姉ちゃーーん!」
シアは大泣きしながらエルーナに抱きついた…
そこからの記憶はなく、次に目を覚ましたのはエルーナの部屋だった
「起きたわね、大丈夫? お水飲む?」
「うん、ありがとう姉さん」
その日から、私はお姉ちゃんなんだからしっかりしなさい
そんな小さいこ事で怒るのなんてお姉ちゃんじゃない!
と、ことある事にそう自分に言い聞かせ、ノアに突っかかることは無くなった。
ーーーーーーーーーー
今に戻り、ノアールはシアに追いかけられている
「待ちなさいノア!」
「待てと言われて待つバカはいないよ!」
くそっ!剣の稽古で見てるから分かってはいたけど、やっぱり早いな!
シアの全力疾走は、ノアのそれと比ではない
くっそ、身体強化を使うか?
そう思っていると、後ろから魔力を感じた!
え?魔力?嘘だろ?
ノアが後ろを振り向いた時には、もう魔法は放たれていた
「うわっ!そんなのあり?」
俺のそんな叫びも無意味
かなり至近距離で放たれた水の玉は、俺が次に踏み出すはずの地面に直撃し、俺は足を滑らせて盛大にスっ転んだ
「イッテー!! 酷いよ姉さん!」
「ふん!あんたが生意気な口聞くからよノア!」
「くっそー、姉さんは魔法は苦手だったはずなのに、どうしてこうゆう時だけは・・・」
「ふふんっ!一体いつの話をしてるのよノア! 私だって成長してるのよ?」
「ふん、たまたまのくせにいばんないでよね!まったく イデェッ! 殴ることないでしょ!」
「いつまでも馬鹿みたいなこと言ってるからよ! たく、こんなに遠くまで逃げてきて、ほら!さっさと戻るわよ!」
ちぇ、まさか姉さんが苦手な魔法を使ってくるとは計算外だったな!
次からは足止めも考えなきゃ…って
なんかこんな感じでシア姉さんに追いかけられたのも、随分久しぶりな気がするな
「ほら!早く立ちなさいよ!」
「うん」
なんだろ、なんか変な感じ…
「姉さん、昔はよくこうして追いかけられてたよね!」
「そうだった? 覚えてない!」
ふ、シア姉さんめ、とぼけやがって
「今の姉さんも好きだけど、昔の姉さんも俺は好きだな!」
「なっ!」
お?効いてるきいてる! こう顔に出やすいのが、姉さんの面白いところだったんだよな!
「いったい…」
「んーー?なぁーにーー?聞こえないよぉー?」
ノアはここぞとばかりにシアを煽る
「いったい…誰のせいでこうなったと思ってんだボケーー!!」
「うわぁーー!ちょっとイダダダッ!姉さん! 止めて!イッタイ! ギブギブ!」
シアはノアをひっ捕らえ、こめかみグリグリの刑に処した!
イッテェ〜、マジのやつだったな今の。
「ふん、ノアがそういうなら、昔の私に戻ってあげるわよ!ノア! もうあんたも大きくなったしね!」
シア姉さんは満面の笑みでそう言ってきた
「え?今なんて?」
「別にー?ノアが気にする事じゃないわよ!」
なんだよそれ、そんなこと言われたら余計に気になるだろ!
「ねぇーなんて言ったのさ!ねーねー!」
「あぁーもううるさいわね! お姉ちゃんが何も無いって言ってるんだから何も無いのよ!」
そう言って、シア姉さんはそそくさとみんなの方へ行ってしまった
結局、姉さんがなんて言ったのかは、分からずじまいだった。
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