第24話 浴衣と甚平


俺と父さんは、親子水入らずで話をしながらも、ベイリー被服店に到着した


ガチャッ!


「いらっしゃいませ!…デイリス様?! それに対してのノア様!!」


出迎えてくれたのは、初めて見る女性店員だった


「ベイリー店長呼んでもらえる?」


「はっ、はい! ただいま!」


俺がお願いすると、彼女は文字通り飛ぶように裏に入っていった。


「新人さんかな?」


「そうだろうね! 頻繁ではないがここには定期的にくるからね!」


そう、実はここのベイリー被服店は、田舎には珍しい少しグレードの高い服も取り扱っているお店なので、センバート家のご贔屓店なのだ!


と、そんな事を言っていると、置くからベイリーが出てきた


「これはこれは、デイリス様も来てくださいましたか」


「うん、息子がやってる琴を見てみたくてね! それにノアは定期的にやらかすからさ」


「父さん、俺ってそんなにやらかしてる?」


「うん、だいぶね?」


ぐぬぬ、なんだよ!そんなことないでしょ!


ベイリーの方も見るが、苦笑いをしていた


「ベイリーまでも… 」


「すいませんノア様!」


「別にいよ! 気にしてない!」


俺は少し頬を膨らましながらあざとく言ってみた!


まあ5歳児だからこうゆうのも許されるだろうからね



「それよりも浴衣と甚平はできた?」


「ええ!それはもうバッチリと!」


という事らしい、見たことも聞いたことも無い服もたった2週間でそう言えるだけの物を作るとは!


「ふふっ!さすがはプロだね!」


2週間という期間が早いのか遅いのかは知らないけど、まあベイリーの機嫌を良くしといて損は無いだろ


これからも色々と作ってもらいたいしな!



俺たちはベイリーに連れられ、お店の裏に通された


「こちらが浴衣と甚平になります!」


通された部屋の真ん中に、試作の浴衣と甚平がTの字のラックにかかっていた!


「ノア、これが服なのかい? 私にはそうは見えないけど」


「うん、そうだろうね!でもれっきとした服だよ!」


かけてある浴衣は、柄が無く、特別凄いという訳では無いが、日本人、そして昔から妹に着せたりして馴染みのある俺からすれば、かなりの感動だ!


薄いピンクの無地の浴衣は上品な女性らしさを出すこと間違えなしだろう


シア姉さんの為に作ったやつは、鮮やかな赤色で、活発なシア姉さんに、これまたピッタリ合いそうだ!


「それにしても、いい出来だね!」


「ええ、ですがノア様に頂いた図面だけではどうにも足りなかったので、勝手に色々と付け足してしまいましだので、もし想像と違う点がありましたら言ってください」


「うん」


まあ俺がかいた図面はだいぶざっくりしてし、型紙に起こすには、色々と工夫したんだろう!


俺はとりあえず、甚平の方を試着する事にした


これは大人用のサイズで試作したので、ちょうど来ていた父さんに着てもらう!


着方を教えると、父さんは試着室の方へ入っていった


「ノア!これは部屋着を想定しているんだろう?」


なんかよくわからないけど、試着室の中から、父さんが興奮気味に話しかけてきた!


「うん!まあ男の人はちょっとした外出にも使えるとは思うけど、隙間が多いから基本は室内での使用を想定してるけど!」


「そうかい!これは良いよ!」


そう言って、瞬く間に父さんは試着室から出てきた


「早かったね!」


まあ、甚平なんて浴衣と違って簡単に着れるから早くて当然なんだけどさ!


「ノア!ベイリー!これは凄いよ! 今までの服よりも風が通って、真夏の今でもだいぶ涼しいよ!これ!」


ふふっ!父さんはだいぶ気に入ったようだ!


まあそれもそうだろう


この世界にはエアコンも扇風機も無いからな!


風魔法が使えれば、いつでも涼しく過ごせるが、それでも魔法を使い続けるのはかなり骨だ!


だから、甚平みたいな通気性しかないような服は、風が肌を包んで涼しいに決まってる!


ここらの気象は基本乾燥してるから、夏も風が当たるだけでだいぶ涼しいのだ!


「ノア様、どこか不備は見当たりますか?」


ベイリーにそう言われ、ニコニコしている父さんの周りをクルクルと回りながら、おかしな点がないか探す


だが、特におかしな点は見当たらなかった!


「甚平はひとまず大丈夫かな!」


「おぉ、これは良かった!

では甚平はこの型紙で生産させていただきます!」


お!こっちも売る気満々だな!


「うん!契約云々は浴衣と甚平別にする?」


「ええ、そうした方がいでしょうな!」


だそうだ!


まあお金が入ってこれば何でもいいんだけどね!



続いては浴衣の試着をすることになる


本当はシア姉さんに来てもらいたかったが、どうやら友達と予定があったようなので誘わなかった


浴衣は出来れば女性に来てもらって意見を聞きたかったので、ああしようこうしようと、男3人で言っていると、置くから2人の女性が入ってきた


1人はこのお店でもよく見かけるベイリーの奥さんのリタさん!


そしてもう1人は先程対応してくれた新人の女性だったった。


「あなた、試着する人に困っているなら私達が引き受けるわよ!」


ベイリーのリタは入って来るなりそう告げた!


どうやらこの2人も浴衣が気になっていたらしい!



「これは失礼しました! こちらはうちの娘のロザリーです!」


「ど、どうも!先程は失礼しました! ベイリーの娘、ロザリーと申します!」


と、肩に力を入れてガチガチに緊張しながら自己紹介をしてきた。


「おや? 大きくなったね! 私のことは覚えているかな?」


「はい!当然です!」


て、父さんの事を忘れる人なんてそう居ないでしょ・・・



ベイリーが言うには、ロザリーは現在21


15で成人してからは、布地、糸で有名なお隣、ヨミネス男爵領で機織りの修行をしてきたそうで、結婚した旦那さんは染物屋の家系らしく、ここテルヌスの街で染物屋を開く準備をしているそうだ!


「それで、試着はいかがいたします?」



どうもリタは、だいぶ浴衣が気になるらしい!


浴衣のき方を知る俺と、5歳児だが男なので、一応ベイリーも同行して、着付けを教える!


甚平ほど簡単とは行かないが、着物よりもだいぶハードルは低く、俺も妹で着せるのに慣れているので、説明しながらたんたんと着せ終わった!



「うん!とりあえず問題は無さそうだよ!」


「そうですか!それなら一安心です! それにしてもこの浴衣! 上品な美しさと女性らしさが出て相当良いですな!」


「本当よ! これは確実に売れるわよ! 最近見かけるようになった鬼神族の女の子たちもこんな感じの服を着ていたわよね?」


「うん、それに近いかな?」


「あの服、街のみんなの間でかなり話題なのよ! だからこの服は凄いことになりそうね!うふふっ!」


どうやら出来上がったタイミングは相当良かったらしい!


確かにコウやチヨが着ている服は、和服っぽい物で目新しくて可愛らしい!


海外でも和服は人気あるし、こっちでも人気が出るのも当然か!



試着室を出ると、父さんとロザリーだけでなく、従業員も何人か見に来ていた!


「お母さん!凄い綺麗よ!」


「何これ!凄い!」


「最近話題のコウちゃんとチヨちゃんの服に似ているわね!」


「「「可愛いー!!」」」


ふふっ!どうやら女性たちにはかなり受けが良いようだ!


そんなに大きく稼ぐつもりはなかったが、これは思ったよりも稼げそうだぞ!



ベイリー被服店の従業員達が浴衣に騒いでいる中、俺も1人でニヤニヤしながら、入ってくるであろう金額を想像するのだった。

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