第16話 空間魔法の存在


「コウ!」


「父様!」


群衆をかき分けて歩いてきたこの男は、どうやら少女の父親らしい


一際豪華で洗練されたような衣服に身を包み、綿の面で顔を隠しておりかなり異様な雰囲気をまとっている


そして周りの群衆の呟きに、さっきから里・長・と言う単語が聞こえてくる


つまりは、ここのトップという事だろう


その娘が居なくなったんだ、この騒ぎになるのも無理はない



「貴様らが人攫いの人間か!」


そう言う里長は激怒しているのだろう、膨大な魔力を垂れ流しながら父さんの正面にしゃがみ、父さんと目線を合わせるような態度で威圧的な質問をする


「まさか自分たちから人間に恨みを持つここへ入り込んで来るとは・・・」



何だよそれ、恨みって何があったんだよここは


俺たちはただ少女を返しにきただけなのに、何故こうなったんだ!


俺は今までの人生の中で1番恐怖と戸惑い、そして緊張を味わっている




「この街の長とお見受けする、私はドリス王国にて国王陛下より男爵位を賜る貴族デイリス・センバート

いきなりの訪問で失礼は承知していますが、出来るだけ早くこの娘をこちらに返し届ける必要がありましたので御容赦を」


ものすごい威圧をされる中、父さんは自己紹介と何故ここに来たかを堂々と言う


今にも本気で殺してきそうな相手になんでそんなに冷静に堂々としてられるんだよ!


度胸ありすぎたろ父さん…


父さんの発言の後、数秒の沈黙がこの場を包む


そんな沈黙を打ち破ったのは、まさかの人だった


「父様、この者達は先日の奴らとは恐らく関係ありません」


「コウよ、なぜそう思う」


は?なんで?


俺は内心かなり驚いた


先程まで本気で俺たちを恨んでいた少女が俺たちを庇うような発言をしたのだ、目が飛び出そうになっても仕方ないだろ


「私がそこの通路を抜けると、そこはこの者達の領域内だったのです、大きな建物と多くの人

そして何より、先日の奴らとは全くもって纏う衣装も、そして何より言語が違いました」


は?嘘だろ?


少女の態度に驚いていた俺だが、この言葉にはさらに驚かされた。


それは父さんも同じようで、少し目を見開き、少女のほうを見ている



ここの人達がつい最近に、人に襲われたという事は周りの人たちの話す事を聞いて分かってはいたが、その人たちとは言語が違ったと言ったのだ


言語なんてそうそう変わるものじゃなく、多少のちがいはあれど、この大陸の国々はみな同じ言語だと習った


つまり言語が違うということは、ここは俺たちがいた大陸とは別の大陸にある場所の可能性が高いと言う事だ


だが、なら何故そんな意味不明な事が起きているのか訳が分からなすぎる


驚き倒している俺たちなんて気にもとめず、この親子は真剣な話を続ける


「そして何より、この者達の街とこの里の境に鬼の石像が置いてある神域がありました」


少女のその言葉に、里長とお面部隊達はあからさまに表情を変え仰天している


「コウ!それは本当なのか?」


「はい父様、先程ここに来る際にこの目で見たので間違い無いかと思います」


少女のその言葉で里長からの威圧は全くもって無くなった


「そうか、ではその少年こそ適性者なのか」


「はい、そうだと思います。」



2人がなんの話しをしているのかは全く分からないが、雰囲気的には大丈夫っぽい


気は抜かないが、俺は少しホットした



「威圧して悪かったな、ここはつい先日人間に襲われ何人も民が死んだのだ、人間と聞いて普通には居られんかった、為政者として恥ずかしいかぎりだ」


「そうですか、ですがそこの娘さんの態度からしてそんなことは覚悟して来ておりますので大したことではありませんよ」


「私はここ、鬼神族の里の長を務めている アマツカミ・ルイ と言う、アマツカミが姓だ」


ん?アマツカミ?それって日本の神だよな、偶然か?


でもそんな事がありえるのか?


「我が娘、コウの言により状況は理解出来た、少年は石像の神域からこちらへ渡ってきたのだろう?」


長は俺の方を見て聞いてきたので、俺も答えておく


「ええ、路地を抜けたらいきなりここに出ました」


「そうだろうな、それは古よりわが先祖が龍神様の御力をお借りし作り出した転移門の魔具だ、それは空間を司る魔法に適性があるものにしか見えんものだが、そこの童はそれがあるようだな」



「「・・・・・・はっ?」」


俺も父さんも、余りの突飛な真実を聞かされ混乱する


空間を司る魔法だと?


確かに、神からは全ての魔法が使えるとは聞いたが、そんなデタラメな魔法まで使えるのか?


というかそんな魔法聞いたことも……いや、古、昔、あっ!古代か! それならさっき買った本にもあったやつだ!


俺はどうやら、かなり面白いことを聞いてしまったらしい


古代魔法か、帰ったら早速本を読まなきゃな!!



「そちらからすれば突飛な話だと思うが真実はそれだけだ、受け入れるしかない」


「ええ、そうでしょうね・・・」


父さんは苦笑いをしながら答えるので精一杯だった



だが、お互いに険悪さは抜け、野次馬たちにはまだ拒否的な話をする者もいるが、そこまで心配なことにはならなそうだ


本当に良かった。少女が迷いこんできた時はどうしたものかと思ったが、まあ何とかなったな


ちなみに長も古の魔法には詳しくないようで、それ以上の情報は聞けなかった


だが存在は知れたんだ、必ずこの空間魔法は使えるようになっておきたい!



俺は心の中でそう誓うのだ。

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