第15話 両者の対峙


<<< 角の一族の里長の家 >>>



ドタドタドタッ!


「急ぎの用でございます!」


「入れ」


里長の男の部屋に、息を切らした面の男が報告に入る


「何かあったか」


「た、大変です! コウ様が…コウ様が人間に攫われました!」


「はっ?」


伝令の男のあまりにも唐突な言葉に、里長は唖然とするする


コウが攫われただと? 何をバカな、人間が結界を突破できるはずがないだろう



「何の冗談だ! どういう事だ!」


「じょ、冗談ではありません!境目きょうもく道にて人の子発見の報があり、我々と共にコウ様が捕縛に行ったものの不覚にも目くらましにやられ、コウ様のみが人間を追いそのままお姿が無くなりました」


「な、なんだと…」



里長は驚愕する


ここは鬼神族という種族の隠れ里であるのだが、実はつい最近人間に里の場所を見つけられ攻撃されていた

そのためここ数日の内に結界魔法をかけ直していたのだ


そのためここの場所に人が入る事など不可能なはずの中、娘のコウが攫われたときた


里長のルイはその事実が信じられず、数秒間全く動けなかった


「ルイ様、どう致しましょう」


ハッ!今はほうけている場合ではないな


まずは里のものたちの安全だ


「うむ、とりあえずは人間が入ってきた場所を探せ!またいつ現れるかもしれん」


「ハッ!」


「それとこのことはエンには言うな! 必ず面倒事になる!」


「御意!」


「うむ、では俺も現場へ向かう!行くぞ!」


「ハッ!」


心底娘が心配だが、ここは長として気持ちを押し殺す


すまんコウよ、今は里のものたちの安全が第1だ、必ず見つけ出す!それまで無事でいてくれ!


ルイは心の中で叫びながらも警ら隊を連れ、ノアールが最初に現れた屋台通り『境目道』へ向かう



ーーーーー


こちらは例の裏路地にて



「これがノアの言っていた角の生えた像かい?」


「そうだよ、んでなんでか知らないけど、そっちの通路を抜けるとこの少女の街に出るんだよ」



俺たちは少女を連れ例の謎の石像の場所に来ていた


でも父さんも知らないとなると、これは一体何なんだろうか・・・



石像についての謎は深まるばかりだ



父さんも石像は少し遠目から見るだけ


どうやら俺と同じく、この場所に下手に足を踏み入れると、何となくやばい気がするらしい


父さんと俺は不思議そうな目で石像を見るが、こちらに来てしまった少女は何やら神妙な面持ちをさせている


でも聞いたところで無視されるのは分かりきったこと


俺たちはその場を離れ、通りへと抜ける道へ向かう


「では行くよ?ノア、防御の準備だけはしておきなさい! 騎士の剣は借りてきたが、私はこれじゃ本気は出せないからね?」


と、父さんの今のセリフはつまり、もしもの時は自分の身は自分で守れ!と言う事だ


戦争の英雄である父さんでも、未知数の敵を相手にする時は死ぬことすら覚悟しているらしい


俺にとってはそれが以外であり、そして緊張でもあった


「はい!」


俺も覚悟を決め、何があっても対応できるように気持ちを切り替えて


バリアの魔法を展開しておく



俺の覚悟ができたのと同時に、父さんは俺を見て1回だけ頷き、異界への道を一歩一歩と歩き出す



ーーーーー


「なっ・・・」


「あっ・・・」



俺たちが通路を抜けると、10人ほどの警察機構の面の部隊と鉢合わせした


父さん以外は両者動けず


数秒の時を刻み、やっと口が動き出す


「人間!!」


「それにコウ様!! ご無事でしたか!」


お面の人たちは相当心配だったんだろう、少女の安全を確認し、聞き取れないほどに10人全員が一斉に喜びと反省を次々と口にする


そんなお面部隊の言葉で、父さんと俺はこの少女の地位をだいたい察した



だが、お面部隊に囲まれているせいで動くことはほぼできない


父さんと俺は、微かに目線をずらし、ある程度のすり合わせをしてた


と言っても、今の会話からこの少女が恐らくここのトップクラスの人物の娘であることを理解し合っただけだ


そのため、向こうさんも下手に動くとこの少女の命に関わるとわかっているらしく何もしてこない


まあ俺たちは争いに来た訳じゃないので、むしろこっちの方が好都合なんだけどね


そんなことを思っていたら、父さんがお面部隊へ話しかけた



「私はドリス王国にて男爵家を賜る、デイリス・センバート

ここを攻撃するつもりは微塵もない、代表者に取り次いでほしい!」


「クッ、人間が攻撃しないだと?何を世迷言を!!」


「貴様らの言うことなど信用できるか!」


「今すぐコウ様を離せ!人間!」



父さんの言葉に彼らは全く聞く耳を持たず、逆に罵詈雑言を浴びせてきた


そんな叫びをある程度聞き流していると


父さんがおもむろに片手に持った騎士の剣を地面に置き、その場に胡座あぐらをかいて座った


正面を向き、顔は真剣そのもの、その愚直な瞳は「私は嘘など言っていない!」と語りかけているようで、なんとも不思議な雰囲気を醸し出している



そんな騒ぎになっているのだ、もちろん街の人達は野次馬をしに群がって来ている


中には石や物を投げてくる人も居るが、父さんは一切気にせずにただただその場に座り前だけを見ている


まじかよ父さん、それはカッコよすぎるよ!


こんな凄い父親が他に居るだろうか、こんなかっこいい姿を見せられたら、俺も立ってはいらない


俺もその場に座り込んだ



そして驚いたことに、俺の隣にいた少女もその場に座ったのだ!


つい数分前まで敵意をむき出しにしていた少女がだ


それほどまでに、父さんの行動に感じる物があったのだろう


父さんもそうだが、この少女も少女で物凄い胆力の持ち主だと感心してしまう



「おい、コウ様まで座っているぞ」


「どうなってるんだ」


「分からわん、何が起きてるんだ」


少女のこの行動には、お面部隊だけでなく街の人たちにまで混乱をうんでいる


てかこんなに人いたっけ


気づけば300人くらいの住人が俺たちを取り囲み、混乱しながら話し合うので、かなりの声量になって相当うるさい



だが、そんな喧騒も数十秒後にピタッと止んだ


なぜかと疑問に思っていると、ちょうど俺たちから見て正面


人だかりの和を穿つように、何かがコチラに迫ってくる



なんだあれ、何が起きてるんだ?


俺は正直かなりビビっている


だってここ、見知らぬ土地だよ? 敵に武器構えられて囲まれてるんだよ?


現代で言うならば、非合法の組織の人達に事務所に連れ込まれて囲まれてるようなもんだよ?


怖いに決まってる



俺はブルブルと肩を震わしていたが、人をかき分けて俺たちの目の前に現れたのは、今までの人たちとは一際違い、神秘的なオーラを放つ男だった


そんな男が少女を見つけ、第一声を叫ぶ


「コウ!」


「父様!」



どうやら少女のお父様だったみたいだ。

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