第11話 異世界の異世界


「ノアは今日の予定は決まっているのかい?」


朝食後の家族の団欒中、父さんがいつもの質問をしてきた


「うん、と言っても街をブラブラして面白そうな所を探してみるだけだけどね」


「ほぉ、では街の西側に行ってみると良いかもねノア程の魔力が…いや、行って自分で見た方が面白いか」


父さんがわざとらしく話を途中で切りやめる


なんだそれ、父さんがそういう言い方をするって事は面白い、そして魔法に関連がある何かがあるんだろうな


行くしかない


「へー、なら行ってみるよ」


俺は、現代魔法7属性全ての魔法を習得しているが、完璧に使いこなせているとは思っていない


きっと色々な応用や魔法同士の掛け合わせなんかもあると思い、よく裏庭で研究している


攻撃的で普段は使うことは無いが、水と火、氷の魔法を調整しながら使い、水蒸気爆発を継続的に引き起こさせる方法なんかは、1番の成功例だ


こんな事をやっているから、家族に魔法バカと呼ばれるのだが、これは仕方の無いことだ


みんなだって、もし魔法が使えるようになったら、めちゃめちゃ色んなことを試すだろ?



まあそんな話しは置いておき、俺は父さんに言われた街の西側に来ていた


と言っても、俺は3歳頃から、この街を探索しているので、この辺りも特段珍しくもない


勝手知ったる道を歩いていると、見たことない屋台が出ていた


「あれ?こんな所に屋台なんてあった?」


気になったので、俺は屋台の店先にいるおっちゃんに声をかける


「お?知らないか坊主、つい3日程前からこの街で屋台を始めたんだよ!」


そう言うのは、この屋台の店長であろう髭がもじゃもじゃで、身長が2mはあろう大男だ


「へぇ〜、なんの店なの?」


「お?気になるか? ハッハッハ!ここは雑貨屋だ!」


ほぉ、屋台の雑貨屋は珍しいな、この街にも雑貨を売る場所はあるが、どれも店舗だからね


「へ〜、珍しいね」


俺は並んでいる雑貨を見てみる


台には、本当に色々なものが置いてあった


アクセサリーから布帯、調味料、筆記具に魔道具まで、そして本もある


面白そうな本があったので、頼んだら少し見せて貰えた


背表紙には、著:ノスウェンディー 『古代歴史散』と書かれている


「これいくら?」


「ん?あ〜それは面白そうな題名だから買ったはいいが、呼んでもあまりだったからな、銀貨1枚でいいだろう」


おいおい、客が買おうか迷ってるのに内容があまりとか言うなよな


そう思いながらもその本と、本好きな兄さんとエルーナ姉さんの分も2冊、こちらはどこかの国の伝記本だ


1人だけないとシア姉さんが拗ねそうなので、シア姉さんには、シックで大人っぽい黒い花ビラの付いた髪留めを


そして、もうひとつ気になるものがある


それはアクセサリーが沢山入った木箱の中にある1つの指輪


鮮やかなエメラルドグリーンの宝石がくっついており、リングは二匹の蛇?龍?が交差しながら、左右から宝石を加えたような形の指輪なんだが


光ってるよなこれ


そう、その指輪は何故か薄く光ってるのだ


「ねえおじさん、なんでこの指輪は光ってるの?」


光る指輪なんて初めて見たので、おじさんに聞いてみるが、とぼけた顔をして言ってきた


「は?何言ってんだ坊主!指輪が光る訳ねえだろ!」


どうやらこのおじさんには見えていないらしいが、俺の視線の先にあるそれは、明らかに光を発しているのだ


気になったのでこの指輪も買った


分厚い本3冊は少し重いが、屋敷に置いてくるほどのものでも無いので、そのままこのエリアを歩いてみる



「それにしてもこの指輪はなんなんだろう」


俺は先程買った指輪を片手に考察する


と言うのも、店頭では光っていた、これは確実に見間違いではなく、完全に光っていたのだが、今はその光が消えているのだ


訳が分からないが、光には何かの条件がある事は、まあ察せられるよな


次に魔力を込めてみる


が、特に何も反応はない


「本当になんなんだこれ」


どうにも理解出来ないので、俺は諦めて指輪をポケットにしまい、街の探索へ戻る



ーーーーーーーー


まったりしながらもしばらく道を歩いていると、主婦であろうおばさんが路地に入って行くのが目につく


あ、そう言えば、俺ってこの街の通りは見て回ったけど、薄暗い裏路地は行ったことないじゃん


薄暗い裏路地って犯罪が横行してる場所のイメージが勝手にあった場所なので、俺は無意識に避けていたのかもしれないな


そう思い、俺は少しだけ意を決して裏路地へ足を踏み入れる


と言っても、別に何があるわけでもなく、何の変哲もない建物と建物の間を歩くだけだ


「んー、特に何も無いな」


変わった物どころか、犯罪をしてそうな人影1つ無かった


いるのは、建物の表は恐らく店舗なだろう、裏口から出入りする仕事着の人くらいだ



少しの間歩いてみるが、特に気になるものもないので路地裏から出ようとした時、ふと目線を奪われる


「なんだあれ」


奪われた目線の先には、明らかに異物とも思える不思議な物があった



薄暗い路地裏の突き当たり、その一角は二畳程の小さなスペースがあり、中心に、不思議な像が立っている


その象は、恐らく人を型どった物だろうが、額に2本、さらに左右のこめかみ辺りから2本、計4本の角が生えている


そして、まるでその像にスポットライトを当てているかのごとく、建物の隙間からこぼれる光が、その空間を照らしている


「ここは入っちゃ行けない場所だな」


先程までは聞こえていた街の人達のたてる生活音が、この象の前に来た途端、シーンと聞こえなくなった


次第にこの象が神秘的に見え、ずっとこの場所で見ていられるような感覚があるのを感じ、美しく神秘的だが、恐ろしいく思う


「こ、これは怖いな」



少し恐怖を覚えた俺はその場を後にし、適当に通りの道に出るのだが、そこは先程までいた街ではなかった


センバート領にある街は『テルヌス』というのだが、街並みはヨーロピアンな場所だ


石造りやレンガ造りの建造物も多く、ほとんどが二階建て、大きいと3階建ての建築もあるような街並み


だが俺が今たっている場所から見えるのは、明らかに違い、赤褐色の土壁で作られた1階建ての建物が並び、縁日のように通りの左右が屋台で埋め尽くされ、賑わっている


屋台と屋台の間にはロープが張られており、、提灯がロープにぶら下がっている


そして何よりもおかしな点は、この街にいる人には全員に、先程の象と同じ、額に2本、こめかみから2本の計4本の角が生えている


ムキムキの若者、手を繋いで歩く母子、寄り添って歩く老夫婦、例外なく全員にだ。


「な、なんだここ」


俺は今来た道を振り返る


「はぁよかった、道はある」


こういうパターンって、来た道が閉じて帰れなくなってるやつじゃん?


なので俺は、来た道がある事に心底ホッと息を撫で下ろす



明らかにおかしなこの場所に、俺は少し興味が出てきてしまったので、少し探検してみる。

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