第10話 センバート家の雑談


「ねぇノア、それってどんな感じの服なの?」


さすがは女性、新しいファッションに興味津々らしい


「浴衣も甚平も、男の人も女の人も着れる物になる

よ、浴衣は露出が少ないから外でも着れる物になるね、甚平は部屋着にはちょうどいいと思うよ?」


「そう、それでその服は可愛いの?」


「んー、ベイリー、最初は無地の布で試作だよね?」


「そうなりますかね、柄布は値段が高くなるので、試作では無地の方がいいかと思いますよ?」


それはそうか、色つきならまだしも、柄付を付けるのは難易度が上がりそうだしな


「そっか、なら色は無地になっちゃうけど、それでも可愛いし、少し上品な可愛さを出せると思うよ?」


「それは本当なの?!」


姉さんが一気に詰め寄ってくる


あ、シア姉さんはエルーナ姉さんみたいな、お淑やかな女性に憧れてるから、上品とか言うとがっついてくるんだった


「う、うん」


「なら私の分も作ってちょうだい!」


「え?でも試作だからどうなるか分からないよ?」


とは言ってみるものの、女性がこうなってはもうどうにもならないのは知っている


「ならベイリー、2着づつお願い出来る?」


「ええ、もちろん構いませんよ、では使う布を選びに行きましょうか」


そう言ったベイリーに連れて乗られたのは、30種類ほどの布のサンプルがある場所だった


「へー、こんなに布があるのも壮観ね!」


「うん、色はないけど面白いね!」



そして俺は選ぶため布を、1番から順に触って選んでいく


浴衣も甚平も、夏にメインに来て欲しいから、、サラサラとした手触りの通気性が良さそうな暑さの布を探す


「どうですか?」


「んー、14番と27番がいいとおもうんだけど、どっちにしようかな」


14は通気性が良く、27は、少し厚いが、手触りも通気も良さそうだった、そして値段も少し高いのだ


俺がそんなことで迷っていると、姉さんが案を出す


「それなら1着は14番で、もう1着は27番で良いじゃない!」


27番は多少は値が張るが、これも仕方ないか


「ならそれでお願い!」


その後も打ち合わせをして、話を詰める


「いやー、面白い注文ありがとうございます!」


「うん、よろしくね」


「ええ、だいたい2週間後には出来ますので、それまでお待ちくださいね、 代金は2着分で銀貨8枚です」


「あれ?もう少し高くなると思ったんだけど」


布の代金や作業の手間賃などを考えると、ベイリーが提示してきた金額は、1割ほど少なくなっていた


ちなみにこの国のは紙幣はなく貨幣のみ


銅貨=100円

銀貨=1万円

金貨=10万円

大金貨=100万円

白銀貨=1000万円


という仕組み。



「ええ、先程の着付け後のスケッチからすると、この服は確実に売れます!なのでこの程度の割引はどうということでも有りませんよ 」


ベイリーは仕立て屋ギルドの長、この街の仕立て屋のトップを務める商売人だ


そんなベイリーが言い切るのだから、そうなるんだろうね


「じゃあさっきも言ってた通り契約云々はできてからだね?」


「はい、ですがまずは完成させますよ!」


「そっか、ならよろしくね!」


俺は銀貨8枚をベイリーに渡し、店をあとにする


ーーー


「ノア、あなたよくあんな額持ってたわね、私の分は自分で出そうと思ってたのに」


「まあ普段から、そんなに使うこともないしね」


うちのお小遣いは月に銀貨1枚だ、ハリーやチコと街で遊ぶ時も、基本的には買い物はしないし、必要なことはほとんど魔法でなんとかなる


買うといえば、たまに雑貨屋で本を買うか、屋台の串焼きを買うくらいだ


なのでまだ財布に余裕はある


「でも良かったの? 何かに使いたい時にないと困るでしょ?」


「まあそうだけど、ここ2年、外に行く時に付き添ってくれたお礼だと思ってよ」


まあ、このお金は自分で稼いだ訳では無いけどね


「もう、ノアったらいつの間にそんないい子になっちゃったの?」


「何言ってるの?俺は元からいい子じゃない!」


姉さんは物凄く嬉しそうに茶化してきたので、俺も軽口を叩いておく


午後2時頃の炎天の中、姉さんの目元には太陽の光を反射して、キラリと光る雫がある事には、誰も気づかなかった


ーーーーー


夕食後、今日は何をしたのかと父さんに聞かれ、浴衣と甚平の事を話した


「へ〜、ノアも将来のことを考え始めたのか、いい事だけど、少し寂しい感じもするね」


「ええ、つい先日まではハイハイだったのに、それが将来のことを、考えてるなんて」


デイリス父さんの発言に、テスナ母さんがふざけながらも、半分実感の籠った感じで茶化してくる


つい先日って、もう5年も前の話なんだけど


「エルーナもあと3年で成人だし、時が経つのは早いわねぇ〜」


「ああ、エルーナ、婚約はどうするんだい?」


え?エルーナ姉さん婚約申し込まれてんの? 知らなかった


「嫌よ、センバートの名前を利用したい連中ばっかりだもの」


父さんは戦争の英雄


センバートの名前が使えれば、色々と利益があるため、近寄ってくる連中は多い


特にその手段に使われるのが婚約だ


うちの姉弟は俺も含めてだが顔も良く、頭もいい


これは一重に両親の容姿と教育に感謝するしかないだが、そんな好物件を逃しておくほど、貴族という人種は甘くない


最近では俺宛にまでお茶会の招待状が届く始末なのだ


「確かにそういう輩は多いね、まあ焦る必要も我慢する必要も無い、エルーナの好きにすればいいと思うよ!」


「そうね、あなたの人生なんだから、好きにしなさい!」


「ええ、そうさせてもらいます!」



それにしてもすごい世界だよな


政略結婚なんて、現代に生きるほとんどの人は無縁の話、この世界に生まれて5年だが、やはり違和感は半端ない


「エルーナはいいとして、ダリルはどうなんだい?」


「んー、俺もまだ居ないかなぁ、俺の場合は好きだけで決めれるものでもないしね」


兄さんはここの時期領主という立場


きっと頭のいい兄さんの事だ、色々と考えて居るんだろうね


「んー、父さんとしては好きな女性と結婚するのが1番いいと思うが、ダリルがそれでいいなら何も言わないよ」



まったりとしながらも、そう遠くない未来の話をするこんな時間も、なんだか尊いものだと感じてしまった。

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