第9話 将来へ動く





「ノア様、問題はできましたか?」


問題と言っても簡単な掛け算だ、できるに決まってる


「できてるよテス、だから部屋に戻っていい?」


「答え合わせが住んでからですよ」


はぁ、1桁の掛け算なんて間違えるはずも無いのに



この男はテス、元々王家の直轄領であったここ、現センバート領を切り盛りしていた文官長である


父さんは元々、貴族階級では1番下の騎士家の生まれであり、領地経営などやったこともなかった


なので、この領地を賜り経営するにあたって、元々仕切っていたテスをそのまま文官長兼執事のような立場に着いてもらったのだ


父さんは、テスがだいぶいい人だったことも、その決断をするのに大きく働いたって言ってたけどね



なぜ俺がそんなテスに勉強をさせられているかと言うと


俺はつい先月、5歳の誕生日を迎えたのだ


うちでは5歳から、剣、魔法の稽古、そして勉強が本格的に開始する


剣は父さん、魔法は母さん、そして勉強はテスが受け持ってくれているのだ



「さすがですノア様、全問正解なので部屋に行かれても宜しいですよ」


「うん」


いくら簡単な問題とはいえ、テスは平民にして文官の長まで上り詰めた実力者、そんなテスに褒められるとやはり嬉しいものだ


テスに褒められ、スキップぎみに俺は部屋に戻る


ーーーーー


数時間後、俺はシア姉さんと1人で街へ来ていた


「ねぇねえさん、いつまで俺が出かける時はついてくるやつ続けるの?」


北の山の一件以来、俺が屋敷の敷地から出る際は、必ずと言っていい程シア姉さんがついてくる


3歳の弟がオークに襲われた事で、「自分がしっかり見てなかったせいで」と、責任を感じているっぽい


そんなの感じる必要はないんだけどね。



「そうね、ノアは昔からだけど、ハリーもチコも、悔しいけど最近じゃ私よりも頭が良さそうだし、今日が最後にしましょうか」


少し寂しそうな嬉しそうな、なんとも言えない表情で告げてきた


昔は弟に負けたくないと意地を張りまくってた姉さんだが、そんな姉さんももう8歳、成人が15歳ということもあり、発育が早いこの世界、だいぶ大人びた感じになった


子供の成長は早いと聞くが、本当だな。



「そっか、今までありがとね」


「何よノア、私はあなたのお姉ちゃんなのよ?これくらい当たり前よ!」


少し顔を赤らめながら言う姉さんのこんな表情も、時が経つにつれて少なくなっていくんだなと思うと、少し寂しい感じがした


そんなことを言いつつも、俺達は目的の場所に到着する


ここはベイリー被服店、この街の裁縫ギルドのトップであり、町一番の仕立て屋だ


「よし、やるか!」


俺は、店に入る前に、1発気合いを入れる



ーーーー


「今年も暑いなぁ〜」


けたたましく鳴くセミに似たむしの風情ある鳴き声を聴きながら、俺は窓を全開にした部屋で、風魔法を軽くあてながらくつろいでいた


暇だったので、5歳にもなったし将来のことについて考えてみる


俺は男爵家の次男なので、ダリル兄さんにもしもの事がない限りはこの家を継ぐ事は無い


女性なら、政略も兼ねた婚約や結婚もあるが、男の場合は、新たに貴族として取り立てられるか、どこかの貴族家に婿に行かなければ、長男が跡を継いだ瞬間から平民になる


とはいえウチは貴族としての野望やこれ以上の成り上がりなど求めていない田舎貴族なので、政略よりも健全な恋愛で婚約者を決める


なので俺は今の所は90%は平民になる予定



ちなみに残りの10%は、婿に行く可能性


人生何がきっかけで何が起こるかなんて分からないから、多少はその可能性もあるということだ。




ウチのような、軍務派閥に属するような家の次男、三男は、大抵軍に入るが、俺はそんなの嫌だ


オークを殺っといてなんだが、人と殺し合いをするとか、精神的に無理だ


なので一人で生きていく術を、今のうちから考えないといけない


そこで考えついたのが、物を発明し、店と契約して、売上の数割を貰う、まぁよくある方法だ


これなら、異世界の知識という情報がある分、簡単に稼げる


とはいえ、ふつうの生活ができる程度のお金を得られればそれでいいので、やばいものを作ったり売ったりする気は無い


そこでまずは、服でも作ろうと考えた訳だ


幸いうちの隣領、ヨミネス男爵領は、布産業の有名な場所であり、センバート領も豊富な種類の生地を買っている


そのため、色々な服を作れるということだ


まあ、俺は服にこだわったりはあまりしない方だったので、デザインやトレンドとかは知らないが、なんとかなるだろう


俺は適当に、今が夏だからという理由で、甚兵衛と浴衣を思いつき、ベイリー被服店へ来ていた



「いらっしゃいませ、シア様、ノア様、本日はどんな御用入りでしょう」


出迎えたのはここの店長、ベイリーだった


「実は服を思いついたから作ってもらいたくてね、図面は書いてきたから、作ってもらいに来たんだよ」


俺がそう言うと、ベイリーは目をキラキラと輝かせて尋ねてくる


「ほぉ、それは面白いですね、ではまずはその図面を見せてもらいましょうか」


よし、乗ってきたな!


俺はうろ覚えながらも何とか書いてきた図面をベイリーに渡す


「な、何ですかこれは、こんなのが本当に服になるんですか?」


ふふふ、まぁ驚くのも無理はないよ、ここらで見る服はどれも洋服だから、和服の概念なんて無いのはわかってる!


「それがなるんだよ、とくにその上と下が別れてるやつ、ジンベエって言うんだけど、かぜが通りやすいから、夏なんかは涼しいと思うよ?」


ベイリーは少し考え込んだ後、話を進める


「なるほど、こんな図面は初めてです、ノア様はどう着るのかまで考えておられるんですね?」


「うん、じゃ無きゃ図面は書けないしね」


知ってただけだけど


「そうですか、ではやりましょう!」


お?結構決断が早いな、もっと交渉しないといけないと思ったんだが


「え?いいの?」


「ええ、初めてなのでどうなるかはわかりまんが、この服がどうなるのか、仕立て職人として気になります!なので是非やらせてください!」


なんかベイリーの心に火をつけてしまったらしいが、まあやってくれるらしい!


俺もこの交渉は、久しぶりに仕事をしてるみたいで楽しくなってきた!!

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