第8話 夏に氷といえば何かな?
「あれ?兄さん、仕事はないの?」
「ああ、夏と冬はそんなに忙しくないからね」
今は8月中旬、センバート領は日本のように湿度が高い訳ではなく、むしろカラッと乾燥した風が吹くので嫌な感じはしないが、それでも夏は暑い
本でも読もうと書室に来ると、ダリル兄さんがロッキングチェアに座って、本を読んでいた
「へ〜、まあ執務に興味はないけど、せいぜい頑張ってよ!」
「ふふっ、ノアはほんとハッキリものを言うね」
「まあ、言わないと伝わらないし、家族に気を使うのもめんどうだしね」
気心知れた人に気を使う生活なんてしたくない
「確かにね」
兄さんはそうとだけ言って、再度、本の世界に戻っていった
前回の窓から入り込む風が、熱を帯びた皮膚を包み込み、ひんやりと心地よく流れていく
書室は、兄さんが少し揺らすロッキングチェアのギー、ギーという音が場のテンポをつくり、まったりと穏やかな空気が漂っている
はぁ、まったりとはこういう事だな
なんともリラックス出来る空間が、そこにはあった
ーーーーーー
2時間ほど本を読んで、喉が渇いたので厨房に行くと、エルーナ姉さんが料理人と何かしていたので、気になって近づいてみる
「あら?ノア、どうかしたの?」
俺に気づいたエルーナ姉さんが聞いてくる
「いや?別に何も無いけど、何してるのかなと思って見に来た」
「あらそう?運がいいわね! 今色々な果物を使って、ジャムを作っていた所なのよ!」
「へぇ〜、面白そうだね」
センバート領は、土地が農業に向いている為、色々な作物、果物を栽培しているし、新しい種を買い付けては、色々と試したりもしている
そんな訳で、多様な果物があり、砂糖が貴重なこの世界でも、現代人の俺が甘味に困ることは無い
姉さんが試しているのは、すもも、ブルーベリー、ラズベリー、巨峰、マスカットの5種類だ
もう出来上がっていて、あとは冷ませば食べれるとの事だったので、5つのジャムが入ったツボを木の箱に入れ、氷魔法で内部の温度を下げて、無理やり冷ました
「あらあら、魔法バカは現在ねノア、氷の魔法をそんなふうに使うなんて、よくそんな使い方を思いつくものだわ!」
まあ、手動冷蔵庫だしなこれ
「べつに大したことはないよ、それより食べてみようよ」
俺と姉さんの話を聞いていた料理人が、パンを1口大にカットして持ってきてくれた
「ではこちらをお使いください」
「「ありがとう!」」
俺はまず、スモモのジャムをパンに付けて食べてみた
「スッパ…」
多分採れたてのやつを使ったな、スモモは酸味が強かった
スモモはもぎたての時は実が硬く、酸味が強いので4日〜7日ほど置いて、酸味抜きをすると聞いたことがある
次はブルーベリー、これはもう当たり確定だったけど、一応食べてみる
少し渋みはあったが、甘酸っぱい香りが鼻をぬけ、美味しかった
同じように、ラズベリーも少し渋いが全然美味しい
まぁこれは普通に美味しいとわかる物だから、そこまで驚きは無かったけど
次は巨峰とマスカット
こちらは皮を入れたせいか、かなり苦かった
「ん〜、すももは微妙で、巨峰とマスカットはダメね」
「うん、皮は布かなんかで少しだけエキスを絞って入れれば、少し変わると思うけどね」
そう言いながら、試しにスモモのジャムにブルーベリージャムを加えて、舐めてみる
「うまっ!これいけるよ姉さん!」
「あら、本当ね! すももの酸味とブルーベリー甘みがちょうどいいは! 後味もサッパリしてて、ブルーベリーの渋みもやわらいでるわ!」
これは大当たりだった、2つのジャムの相乗効果で、ちょうどいい味になった
ラズベリーとスモモの組み合わせも試すが、こっちは美味しいが、もう少し甘みが欲しいと思う
まぁこれも美味しいくはあるけどね
と、ジャムを舐めていてふと思う
今は真夏、多少高地にあるセンバート領とは言えど、25度は超えてると思う、そして手元には果物のジャム、それでもって俺は魔法で氷を出せる
この組み合わせ、日本人ならもう分かるだろ?
そう!かき氷だよ! 日本の夏の風物詩!!
まぁ最近は専門店とかも増えて、冬にも食べるけどさ
思い立ったが吉日!俺は早速準備をする
当たりだったスモモとブルーベリーのミックスジャムに少しずつ水も加え、ある程度サラサラの状態にしておき、本題の氷
ここは天然氷のフワフワかき氷一択だろう!
俺も食べた事あるが、あれは凄かった、フワフワだし頭がキーンとならない
天然氷だとなぜキーンとならないかと言うと
冷凍庫で水を凍らす時は、ー18度ほどで、急速に冷凍する、そうすると水に含まれるミネラルや他の粒子も一緒に固まり、水分子同士の引っ付きがあまくなり、氷が溶けやすくなるし、脆くなる
頭がキーンと感じるのは、体内のー17度以下の温度を察知するセンサーが、脳に信号を与えるためであり、溶けやすい氷をかき氷にして提供する際は、氷の温度を、ー10度以下の低い状態で削らないと溶けてしまう
また、柔らかいので細かく削ることが困難になり、口に入れた時は、細かく削れない分、氷と舌に隙間ができるため、溶けにくく、センサーに引っかかりやすい
一方天然氷は、自然冷凍にてゆっくりと凍らせるので、水以外の粒子が外へはじき出される、そのため、水分子同士がかっちりと固まるため、固く、0度近くまでは溶けにくい氷ができる
結果、冷蔵庫氷より暖かく、細かく削ることが出来、
粒が細かい分舌に触れる表面積が増え、熱ですぐに溶けるため、センサーにひっかかりにくい
と、こういった理由がある訳だが
氷魔法は、水を凍らす訳ではなく、氷そのものを発現させる魔法、つまり、強くイメージすれば水分子のみの氷ができる
かき氷にこれ程までに適した氷はないだろう!
俺は皿を用意して、物凄く細かい氷を皿に盛っていく
こればっかりは、魔法使いの魔力操作の腕次第!
隣では姉さんと料理人が、「え?なにしてんのこいつ」 という目で見てくるが、お構い無しに3人分作る
上手く盛れたら、サラサラにしたジャムを上からかけて、2人にも渡す
「何も言わずに食べてみてよ!」
2人にそう言いながら、俺は待ちきれずに自分の分にスプーンを入れる
「これだよこれぇ〜〜!!」
出来は上々! ふわふわの氷と、程よい甘みのジャムがちょうどいい!
そしてなにより、次から次へとバクバク口に入れても、頭はキーンとしない!
「最っ高!!」
俺のそんな表情を見て、2人もかき氷を口に運ぶ
「な、何よこれ!」
「お、美味しい!」
2人も気に入ったようだ
俺達は3人、厨房の傍らで、ひたすらに氷の山を食べまくった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます