49話:飲み会
歌音から、色々と話したいことが溜まってきているので、夕飯後に成人組で集まろうと言われた。
特に予定もないので、夕飯と風呂を済ませた後、酒を持って歌音の部屋を訊ねた。
まあ、それが間違いだったのかもしれない。
「お兄様は目を離すとすぐに問題を持ってきますね」
「それに関しては不注意だった。すまん」
「ぐびっ……全く、何をしたら訓練用の的が消失するんですか」
「あー、まあ、色々とな」
「んぐっ……そもそも、何かするならまず相談してくださいと何度も何度も言ってるはずです」
「そうだな。歌音の言うとおりだ」
「……ぷはぁ。一年前の
ワインボトルをラッパ飲みしながらひたすら絡んでくる歌音。
完全に目が据わっている。顔色もほんのり桜色。
立派な酔っぱらいだ。久しぶりすぎてこいつが酒に弱いのを忘れていた。
中々にめんどくさいが、普段から迷惑をかけている自覚はある。
潰れるまでしっかり相手しておこう。
「おぉ。アレイさんが怒られてるねっ!!」
「いつもの光景ですねぇ」
「歌音ちゃんも色々溜め込んでたんだねっ!!」
「色々と悩みの種は尽きないでしょうからねぇ」
おいそこ、聞こえてるからな。
二人とも全く酔った感じがない。
京介は治療院の仕事でアルコールを使うから酒に強いのは知っていたが、蓮樹に関しては然程強くなかった気がするんだが。
俺が居ない間にどれだけ酒を飲んできたんだ、アイツ。
「……お兄様、聞いてまふか?」
「ああ。聞いてる聞いてる」
「大体ですねぇ、私達がどれだけ探したと思ってるんでふか」
「あぁ、悪かったよ」
「また女の子を連れてきますし、ほんとにもぅ」
「またって何だ……いや、そうだな、俺が悪いな、うん」
怒る歌音、絡まれる俺、それを見て笑う蓮樹と京介。
いつだったか、とこかの酒場で、同じ光景を見た気がする。
懐かしいような、普段通りのような、よく分からない感覚。
俺も少し酔っているのかもしれない。
「……さて。お兄様」
「おう、なんだ」
「おやすみなさい」
ゴトリ。ぱたり。
ワインボトルを取り落とし、そのままソファに突っ伏す歌音。
潰れる直前に申請するのは今も昔も変わらないな。
抱えあげ、ベッドに運ぶ。相変わらず軽いな、コイツ。
「ああ、潰れましたか。お開きですね」
「にゃーっ!! 相変わらず弱いねっ!!」
「あぁ、俺らも部屋に戻るか」
「そうですね。おやすみなさい」
ぐっと残りの酒を飲み干し、にこやかに頭を下げ立ち去る京介。
しまった、京介に司書の女性との関係を聞きそびれた。
と言うかアイツ、追究されるのが分かって逃げたな。
……まぁ、本人が幸せなら何でもいいんだがな。
さて。俺も帰るか。
「アレイさーんっ!! おんぶしてっ!!」
空いた酒瓶を纏めていると、蓮樹がまたよく分からないことを言い出した。
「……いや、お前酒強かったろ」
「えーっ!? そんな事ないよっ!!」
「まあ構わんが……何か企んでないか?」
「いやいやいやっ!! そんな事ないよっ!!」
「せめてそのニヤケ面を隠せ」
言いながら背中を向け屈み込むと、そこに飛び乗る蓮樹。
元気じゃねえか、おい。
「にひひっ!! 何だかんだ言って背負ってくれるアレイさんであったっ!!」
「うるせぇ。ほら、行くぞ」
「あらほらさっさーっ!! ていっ!!」
「ぐふっ……おい、首、絞まってるぞ」
「……ね。ちょっと飲み直さないっ?」
「あーはいはい。落ちんなよ」
「にははっ!! りょっかーいっ!!」
そのまま暴れる蓮樹を部屋まで背負い、そのまま二次会が開催された。
久しぶりに深酒して、まぁ、色々とあった訳だが……そこは割愛しよう。
因みに、俺が自室に戻れたのは深夜を過ぎてからだった。
飲み会の翌朝。昼まで寝るつまりだったが、城内の騒がしさで目が覚めた。
何だろうか。悪いことじゃなければいいんだが。
どうにも悲観的な思考を中断して食堂に向かうと、ちょうど楓と詠歌の姿を発見した。
「おはようさん。何か騒がしいな」
「遠征に出る兵隊さんが到着したらしいですね」
「ああ、なるほど……」
今回の遠征は正規の騎士や兵士だけでなく、傭兵や冒険者も参加すると聞いた。
かなり大規模な攻勢になるようだ。
まあ、どうせ俺は遊撃手だから関係ないだろうが、隼人や歌音が苦労しそうな話ではある。
出来ることがあれば手伝う、くらいに思っておくか。
「そういえ、ば……蓮樹さん、見なかった?」
「あー。まだ寝てるんじゃないか? 昨日遅かったしな」
「そうなん、だ。歌音さんが編成のこと、話したいって言ってた」
「昼過ぎには来るだろ。ほっといてやれ」
多分しばらく動けないだろうしなぁ。
「わかっ、た……昨夜、一緒に居たの?」
「あぁ、遅くまで飲んでたと言うか、絡まれてたな。物理的に」
「……? そうなん、だ。飲み過ぎはダメ、だよ?」
「へいへい。気をつけるよ」
相変わらず真面目な奴だ。
因みに、成人した楓に酒を飲ませてみるのが目下の楽しみである。
まだ数年先の話ではあるが。
「……ところで亜礼さん、司君が訓練量を増やしたんですが。亜礼さん、何か知ってますよね?」
「増やしたのか。すまん、心当たりはある」
「やっぱり。止めてくださいね。二人の時間が減ってしまうので」
「いや、それは本人に言ってくれ。俺が言っても聞きやしないし」
「私が言っても聞いてくれないんですよね……いま、一日の大半を訓練に当ててますよ
「生真面目な奴だな。と言うか、仲間内が真面目か適当の両極端が多すぎる気がするが」
司、楓、隼人、歌音、遥が真面目担当。
俺、蓮樹、京介、詠歌、誠が適当担当だ。
ちょうど良い塩梅の奴がいない。
バランスが取れていると思えば良いのだろうか。
何にせよ、俺に話を振られてもどうしようも無いんだが。
「……そう言えば詠歌、聞いてみたかったんだが」
「はい? なんです?」
「司に対する感情はラブなのかライクなのか」
「……信仰、ですかね」
まさかの。
もう少し健全な不純異性交遊しとけと思わんでもないが、確かに普段の言動を鑑みると信仰が近いのかもしれない。
極度の司史上主義だからな、コイツ。
初期の「司以外はどうでもいい」状態よりはマシになってはいるが。
「……最近思うんだが。仲間内にまともなのがいないな」
「類は友を呼ぶ、と言いますから」
「あの。私、は?」
「あぁ、楓は俺的に唯一の癒しだ。あと遥さんがワンチャン」
「癒し……そうなん、だ」
「加護発症時はまあ、面白要員だが」
「………そう、なんだ」
若干へこむ楓。自覚があるのだろう。
いや、同じセンスを共有できない事に寂しさを感じたのかもしれない。
ちなみに誤解されがちだが、俺達の二つ名を着けたのは通常時の楓である。
中二病も楓の一部なのだ。
それを含めても良い子である事に変わりはないのだが。
「しかしまぁ。兵士の召集、ね」
戦争が始まる。
それも、俺達を発端として。
申し訳ないと思いつつ、それでも、頼らざるを得ない。
司や蓮樹を最前線に送り込めばこちらの被害は減るだろう。
だがそれでも、人は死ぬ。
何度やっても慣れないが、それでも。
子ども達だけを最前線に送り込む事はしたくない。
その場合、俺も以前と同様に最前線で突っ込む事になるのだろう。
戦争は嫌いだ。怖いし、人が死ぬ。
それでも避けられないのなら、前に出るしかない。
出来るだけ早く終わらせる。その為に。
出兵前にもう一度、司と蓮樹と話をしなければならないな、と思い、その面倒さに頭をかいた。
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