47話:蔵書庫での一幕
あくびを噛み殺しながら食堂へ向かうと、
手を振ると気付いた隼人が振り返してくる。
兵士に続いてカウンターで朝食を受け取り、そのまま同じテーブルに着いた。
「よう、おはようさん。心配かけてすまなかったな」
「…元気そうで良かった」
「心配、しまし、た」
「ほんま心臓に悪いわ。まー楓と京介さんおったから大丈夫とは思うたけどなー」
「昨日の亜礼さんは検索してはいけない状態でしたからね」
「……その表現は止めろ」
俺は気にしないが他の奴の迷惑だ。
「…何にせよ、あまり無茶はしないでほしい」
「いや、アレは仕方なくな?」
「…左腕損傷後に無理な発勁。普通は右肩だけじゃ済まない」
「あー……まぁ、善処するわ」
「…今度、完全版を見てみたいけど」
「おう。体調戻ったらな。まだ疲れが抜けてないし」
「無茶はだめだ、よ?」
「分かってる。あまり無茶はしないよ」
子ども達に
どっちが保護者か分かりゃしないなと、苦笑いする。
いやまあ、実力的には俺が下なんだが。
「で、今日の予定は?」
「特にないんよなー。街に出ると思うんやけど」
「司君は放っておいたら一日訓練してますからね。たまには連れ出さないといけません」
「私は蔵書庫に行く、かも」
「おぉ、蔵書庫か。懐かしいな」
召喚されてしばらくの間、毎日通っていた場所だ。
ただひたすら訓練と知識の収集を繰り返した日々は楽しいものでは無かったが、今を生きる糧になっている。
おかげで一人旅も出来ているし、今まで何とか生き残れている訳だ。
知識とは無駄にならない。まさに財産だな。
「ふむ。俺も久々に行ってみるかな」
「一緒に行、く?」
「あぁ、そうするか」
たまにはゆっくりと本を読むのも悪くない。
既に全部目を通してはいるが、また新たな発見があるかもしれない。
ともあれ、まずは朝食を食べてからだが。
ベーコンエッグのようなものとポテトサラダ、大きめのパンを食べ終え、楓を連れて蔵書庫へ。
見張り番の兵士も見慣れた顔で、少し挨拶を交わして中に入った。
日本の図書館ほどでは無いが、相変わらず本が多い。
基本的に書籍は一点物であるこの世界では、これほどの量の本を見る機会は滅多にない。
最初来たときは少ないと感じたものだが、今になって見るととてつもない量だと思う。
着いて早々、ふらふらと本棚に寄っていく楓をおいといて、自分も読むものを探す。
とは言え、新しい本も入っていないようだ。適当に見繕うか。
昔はそこまで読み込まなかった物語調の本を手に取り、立ったままでページを開いた。
女神クラウディアの物語。
創成の女神がどのようにしてアースフィアという世界を作り出されたかが記録されているようだ。
何だか色々と誇張した表現を使ってあるが……あのポンコツ女神がここまでちゃんと考えていたかは、
実は何も考えていませんでした、とか言われても逆に納得するんだが。
あるいは、友達が欲しかったとか。
いや、だってなぁ。会う度にキャラ変えてるし。
受けを狙って外してる感が凄いんだよな、あの女神。
何で俺だけ頻繁に呼ばれるかは知らないが、どうせ呼ぶなら同性の、それこそ歌音あたりを呼べばいいだろうに。
すくなくとも、俺で練習してもあまり意味が無いと思うんだが。
……あぁ、思い出したら腹が立ってきたな。
アイツ、無理やり俺たちを召喚しておいて、魔王を倒しても送還方法が分からないとか言いやがったからな。
あの時はマジギレする蓮樹を抑えるので必死だったが、思い返すに一発ゲンコツを落としておいても良かったかもしれない。
今度会った時にでも説教してやろうか。
まぁ日本にいた時でも、神様なんて自分勝手だよな、とは思っていたが。
日本神話はまだマシだが、海外の神話だとそれはもう好き勝手にやりたい放題だしなぁ。
その癖やってる事は人間と同じってくるんだから、中々にタチが悪い。
いや、もう関係のない話ではあるんだが。
モヤモヤした気分で本を読み進めていると、物語は近代に入る辺りで終わっていた。
それ程昔に書かれた本ではないようだ。
しかしこれだけ褒め称えられていれば、あのポンコツ女神も満足だろうな。
いかん、本格的に腹が立ってきた。どこかで解消するか。
さてどうするかと視線を巡らせると、窓の近くに京介の顔があった。
アイツに限って暇を持て余してる事は無いだろうが、蔵書庫に何の用だろうか。
聞くついでに治療の礼を言っておこうと思ったが、司書の女性と何やら話しているのに気が付き、上げかけた手を止めた。
話の内容は聞こえてこないが、随分と朗らかな雰囲気だ。
京介がリラックスした表情で話ているのは中々珍しい。
邪魔をしないように離れようとすると、京介と目があった。
仕方無いので軽く手を上げ、そのまま隣の本棚に目を向ける事にした。
ふむ。しかし、アイツも色恋沙汰に興味があるんだろうか。
もしそうなら祝福してやりたい気もするが。
何せ、
誰と話すときも外面を被ったアイツが、素の表情で話せる相手が仲間内以外にも居るとは。
何とも感慨深い話である。
後で話を聞いてみるかな、等と思いつつ、適当な本に手を伸ばした。
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