14話:親の心子知らず


 朝食後、やたらと急かす蓮樹と共に近隣の森へ向かい、さあやるか、と勢い込んでみたものの。


 到着後十分でオーク三匹を狩り終わってしまった。

 無論、俺は何もしていない。

 蓮樹のやつ、相変わらずのチート具合だな。


「……よし。じゃあ川まで運ぶぞ」

「もう運んであるよっ!!」


 褒めろとばかりに腰に手を当てて胸を張る蓮樹。

 正に至れり尽くせりである。

 通常は討伐だけで複数人の冒険者が必要となるのだが、この英雄様には通用しない常識のようだ。

 まあ、楽でいいが。


 愛用しているナイフでオークの喉元を切り、川に浸けて血抜きする。

 ある程度待ってから腹を捌き、洗いながら内蔵を取り出して、これは横に退けておく。

 オークの内蔵は臭みが強くてそのままでは食べられないので、今回は穴を掘って埋めておいた。

 放っておくと獣や魔物を呼び寄せてしまうので、忘れてはいけない処置だ。


 その後、蓮樹に四肢を切り落としてもらい、胴体を適当な大きさに切り分けてから、冒険者ギルドから借りておいた荷車に積んでいく。

 体重200kgを越えようかという巨体が三匹分。

 荷車にギリギリ積める量だった。


 血の匂いに魔物が寄ってくる恐れがあるし、手早く帰るとするか。

 まぁ、街道沿いで遭遇した哀れなゴブリンは蓮樹が瞬殺していたけど。



 という訳で、子どものお使いレベルの難易度でオークを狩り終え、無事王都に帰還した次第である。

 俺、解体しかしてないんだが。


 冒険者ギルドで肉の凍結を頼み、後でレンブラント邸へ運んでくれるよう依頼し、地図を頼りに屋敷リリアの家へと向かう。

 持参できる量じゃないし、仕方がないとしよう。


 ちなみに、蓮樹はそのまま帰って行った。

 たぶん、飽きたのだろう。相変わらず自由な奴だ。

 まあ、昔よりは接しやすくなっている分、マシになったとも思えるが。



 そして現在。

 リリアの居場所だけ伝えて帰るつもりだったのだが、何故かリリアの親父さんと二人で飯を食っている。

 王城で食う飯よりも豪勢な、正に貴族の食事に相応しいラインナップを前に、若干気が引けてしまう。

 普段はテーブルマナーなんてあまり気にしないしな…

 無礼があれば謝っておけば大丈夫だろうけど。

 それに、この後暇かと聞かれて迂闊な答えを返したの俺が悪かったんだし。



「いやぁ。リリアがお世話になっています」


「どうですか、リリアは見込みはありそうですか?」


「リリアは昔から何でも出来てしまう子でして」


「学校でも優等生だと評価して頂いてるのですよ」


「本当にうちのリリアは」




「……ああ、はい、そうですね、ええ」


 曰く、母親を早くに亡くし、それからは男手一つで育ててきたらしい。

 にも関わらず、真っ直ぐ育ってくれた。

 うちの娘リリアは本当によくできた娘だと。


 これは、つまり、あれだ。親馬鹿の娘自慢。

 それが延々と続いている訳で。

 いや、気持ちは分かるが……勘弁してくれよ。

 リリアが顔を出したく無さそうだった理由がなんとなく分かった気がするな。


「しかし、てっきり冒険者稼業に反対されているものかと思ってました」

「いえ、反対ですよ。出来れば婿を取って商会を継いでほしい。

 ですが、まあ。娘を信じている、と言いますか。

 あの子の人生を私が決めるのは間違っていると、そう思うのです」

「……そうですか」


 なんだ。いい父親じゃないか。

 心配はしながらも、リリアの意志を尊重してくれているようだ。


「ただどうも、最近は距離感が測りきれず困っておりまして」

「あぁ、そういうのってどこの家も同じなんですね」


 俺の場合は娘ではないが、楓や詠歌年頃の娘の考えている事がイマイチ分からない時はある。

 年代の差というものだろうか。難しいものだ。


「お分かり頂けますか」

「少しばかりですが、分かる気がします」

「おぉ、そうですか。まったく、この間なんて……」

「分かります、うちの子も……」


 この後しばらく、親馬鹿話に花を咲かせ、

 帰りに土産まで貰ってしまった。

 ……何やってんだろうな、俺。


 帰り際、冒険者ギルドに寄り、顔見知りになったヤツらと世間話をしつつ、最近の情勢について聞いて回った。

 王都やその近辺では魔物の数が減ってきていて、常駐の討伐依頼も減ってきているらしい。

 稼ぎが少なくなって来て大変だから、他の街にでも行こうかと思っていると語っていた。

 北の魔王国ゲルニカはともかく、その先にある氷の都フリドールや、南の砂の都エッセル辺りではまだ魔物の数が多いんだとか。

 やる気があるのは素晴らしい事だが、無理はするなよと伝えておいた。


 俺には到底真似のできない生き方だ。

 憧れはあるが、俺の場合は恐怖の方が勝る。

 それでも、しばらくしてほとぼりが冷めたら、また旅に出ようとは思っているが。

 今度はもう少し辺境の村にでも行って、また薬草なんかの採取依頼を受けていこう。


 王都での暮らしは賑やかで退屈はしないが、やはり後ろめたさが残る。

 俺はやはり、一人でのんびりと暮らしている方が性にあっている。


 まあさておき、適当に話を切り上げて、そろそろ戻るか。

 あまり遅くなるとまた歌音に小言を言われるからな。

 もう少し、自由な時間が欲しいものだ。

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