7話:騎士団長と魔法使い
女神は言った。
魔王を倒せと。
この世界を救えと。
その為の加護を与えると。
俺達はそれぞれ、願いを告げた。
運命を切り開く力を。
他者を癒す魔法を。
何者にも勝る速さを。
女神はそれを全て受け入れた。
「おっけぇ☆ どんとこいやぁ☆」
どうしようもないゆるさと、あり得ない程の曲解を持って。
特に女神の興味を引いたのは俺の願いだった。
『意志を貫く力』
それはただ、何事にも自信を持てない俺が戦いに怖じ気付かない為の、それだけの願いだった。
のだが。
最悪な事に、女神は俺の願いを否定しなかった。
それどころか、大いに肯定してしまった。
「おおぅ☆ いいねいいねぇ☆ 人間らしいねぇうんうん☆」
「じゃあオマケをつけてあげようねぇ☆」
その結果。
『意志を貫く力』は、『意志を貫く力(物理) 』となった。
この時点で大分意味が分からない。
具体的には、魔力を推進力に変える
メイン部分が
かくして、俺のささやかな願いは。
『超速で吹っ飛び杭打ち機で敵を貫く力』になった。
尚、即座にクレームを入れたが返品不可だった。
どうしてこうなった。
因みに、被害にあったのは召喚者全員で、一番まともなのが
『他者を癒す魔法』を願い、『限定的に時間を戻す力』を与えられた男。
これも大分意味が分からないが、俺の傷が無くなっていたのも、服が新品同様になっていたのもこいつのお陰だ。
常に笑顔を浮かべ、物腰は柔らかく、仲間想い。
そしてこちらが感謝を伝える前に、感謝を帳消しにする程のトラブルを引き起こし、それを見て笑う。
仲間の中二病曰く、暗黒イケメン。
そんな男だ。
今回も、完治まで数ヶ月以上かかるだろう俺の怪我を戦闘前の状態に戻しておきながら、俺の居場所を歌音に密告しやがった。
いやまぁ、今回に限っては全面的に俺が悪いのだが。
「……で。俺達はどこに向かってるんだ?」
「王城です。
「なんだその無駄に疲れそうな面子は」
仲間内の中でも二大面倒臭い奴なんだが。
「王都にいた人を京介さんが集めてくれました」
「なるほどな。イケメン
「逃がしませんよ?」
「……だよなぁ」
馬車の中、リリアと歌音という端から見たら両手に花状態になっていながらも、深いため息を吐く。
割と本気で帰りたい。
しかし逃げようとしてもどうせ回り込まれるので、無駄な労力は使わないことにする。
ゲームのボスキャラみたいだな、と思い、
「アレイさん、そろそろ到着しますけど……大丈夫ですか?」
「ああ、まあ……覚悟は出来た」
リリアがこちらを気遣ってくれた。いい娘だ。
まさか貴族令嬢(仮)と話して癒される日が来ようとは。
本当に、人生は分からないものである。
歌音には、リリアとは依頼で知り合ったと説明してある。
その際、「またですか。節操無しですね」と冷たい視線向けられたのが、何かしら誤解があるような気がする。
どうも昔から俺が女性に甘いと思っている節があるが、それは違う。
老若男女問わず、人の頼みを断る勇気がないだけだ。
どうやったら誤解が解けるか悩んでいると、馬車が止まった。
王城に着いたようだ。
御者に促されて馬車を降りると、城門の上に二つの人影。
ついでに、城門の影にも一つ。こちらは背の高さから見て、多分京介だろう。
ということは。上の奴らも身内か。
あ、胃がキリキリする。
「やあやあっ!! 遠からん者は音に聞けっ!!
近くによって目にも見よぉ!!
我こそはユークリッド王立騎士団っ!! 団長っ!!!
亜礼さんひっさしぶりいいいいっ!!!!
元気してたああああああっ!!!?」
「我が名は
闇より生まれし混沌の悪夢なり!!
我が同胞の帰還、即ち呪われし運命の導きなり!!」
周囲の目が一斉に俺に向いた。こうかはばつぐんだ。
ああ、ほんともう、こいつらは。
俺は目立ちたくなんてないのに。
あまりにも目立ちすぎていたので、ひとまず王城内に入れてもらった。
門兵の人に同情の目を向けられ、何だかやるせない気持ちになりながら客室にたどり着くと、既に人数分の茶と菓子が用意されていた。
そんな中、蓮樹が真っ先にソファの端を陣取り、楓がふんぞり返ってその反対側に腰を下ろした。
二人してこちらを見つめてニヤニヤしている。
あー、うん。真ん中に座れって事ね。うわ、めんどくさ。
「いやほんと久しぶりってゆーか一年ぶりっ!? かなかなっ!? 連絡くらいほしかったし探しても見つからないし無駄足だったし一体全体どこにいたのさ放浪ドラ息子アレイさんっ!!!!」
先程の名乗り通り、異世界出身ながらユークリッド王国王立騎士団長。
見ての通り常にテンションが高く、京介とは違う意味で常に笑っている。
身長130センチ代の小柄な身体に無限のエネルギーを内蔵した暴走娘。
元の世界で剣術を習っていたらしく、召喚直後から戦えていたチートの一人でもある。
「ふはははは!! 我が闇の
早々に答えるがよい我が
…………えっと、おかえりなさ、い。阿礼さ、ん」
こっちの中二病患者が
気持ちが昂ると発症するが、素ではまともに話すことも難しいレベルのコミュ障の女の子だ。
俺達の中では珍しい魔法系の加護持ちで、魔王軍と全面対決した時は敵兵の半分を消し飛ばした実積を持つ。
ちなみに闇とか永久凍土とかいってるが、一番魔法適正の高い属性は光属性だったりする。
「あー、久しぶりだな。俺は田舎でスローライフに励んでいた」
「田舎でスローライフも良いとは思うし楽しそうだけどっ!!
アタシはたぶん飽きちゃうし畑を耕したりできないからご遠慮被りたいかなっ!!
けどそれはそれとして何で居場所の連絡もしないのかなって思っ」
「うるせぇ、これでも食ってろ」
土産に買っておいた干し肉を口に突っ込み鎮圧。
もっきゅもっきゅと頬を膨らませて一心不乱に食べ始める。
おお……こいつ、相変わらず美味そうに食うな。
「で、楓は落ち着いたか?」
「はい、あのその。お久しぶりで、す」
「うん、お前はそっちの方が楽だわ」
「ごめんなさ、い。えっと、嬉しくて、その」
「分かってる。元気そうで何よりだ」
上下幅が激しいのもいつもの事だ。
変わり無いようで安心する。
「……で。城門の影からこっそり見てた腹黒野郎はどこ行った?
礼を言いたいんだが」
「仕事があるって、言ってた、よ?」
「逃げたな」
「逃げましたわね」
兄妹揃ってため息を吐く。
まぁいい。どうせすぐ会えるだろうし、その時に礼を言ってやろう。
腹黒い癖に人の善意に弱いアイツには、それが一番効果的だ。
仲間との再開に胃が痛むと同時、腹の奥に暖かい物を感じた。
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