6話:再会
眩しさを感じて目を覚ます。
あぁそうか。アガートラームを使ってぶっ倒れたのか。
背中に当たる感触が固く、不規則な揺れを感じた。
どうやら馬車の中らしい。
あの後、誰かが回収してくれたのだろう。
視線を巡らせると、一緒に残ってくれた奴らやゴードンの顔があった。
良かった。みんな生きている。
何とかなったようだ。
「おう。起きたかよ、大英雄様」
「……勘弁してくれ」
寝起きにそのしかめっ面は辛い。
しかしまぁ、やはりと言うか勿論と言うか、俺の身元は既にバレてしまったようだ。
弁解しようと体を起こし、違和感を覚える。
服はぼろぼろになって体中に怪我があったはずなのに、それらが全く見当たらない。
しかし、魔力欠乏の倦怠感だけは残っている。
この感じ、覚えがある。昔よく味わった違和感だ。
いやしかし、そんな訳は……
「なぁゴードン、俺の怪我なんだが」
「おう。たまたま通りかかった聖者様が治してくれた」
……聖者様。聖者様ね。
あぁ、そうか、アイツ、そんな呼ばれ方してるのか。
ヤバい。笑えてくる。
「くく……聖者様か。なるほど」
「馬鹿野郎、笑い事じゃねえ……ですよ。アンタ、じゃねぇ、あー……」
「……いや。なんだ、そのおかしな言葉は」
「うるせぇな。貴族様の言葉なんぞ分からねぇ、ですよ」
「はあ? 勘弁してくれ。お互い柄じゃないだろ」
背中がむず痒くなるし、何より意味が分からない。
誰が貴族だ。
「そうかい。じゃあ遠慮無く言うが、てめぇこの野郎。よくも騙しやがったな」
「待て、何の話だ。心当たりが無いんだが」
「とぼけんじゃねぇ。救国の英雄が何で商人の護衛依頼なんて受けてやがるんだ」
「あー……うん。まあ、一言で言うと、金が無いからだ」
「はあっ!? 王様からの報償金は!? 王城勤めはどうした!?」
「……金は全部寄付して、城勤めは辞めた」
正しくは、大金を持ってるのが怖くなったので王国復興資金と称してほぼ全額返還し、王城勤めの堅苦しさが合わなかったから逃げた訳だが。
大金を持ってると強盗とかその辺りが怖いし。
寄付した後、周りからはそれが余程珍しい行動に見えたのだろう。
常に好機の視線に晒されるようになってしまい、耐えきれなくなって王都から逃げた、という流れだ。
「あの匿名の寄付もアンタか!! お前な、アレでどれだけの戦災孤児が救われたと思ってやがる!!」
「ああ、そうなのか。そりゃ良かった」
「こ、の、大馬鹿野郎!!!!」
正直に話したら、何でか怒られた。
そう言えば仲間内からも怒られてばかりだったなと、ぼんやりと懐かしさを感じる。
「ちくしょう、くそったれ……おい、カツラギアレイ」
「今度はなんだ」
「……ありがとうよ。アンタのおかげで、俺達は……いや俺達だけじゃねえ。王都の奴らも、森の民そうだ。俺達はみんな、感謝してる」
「……まあ、どう致しまして、だ」
馬車の
気恥ずかしくなり、頭を搔く。
……ん? 静寂?
馬車が、止まっている?
「……なあゴードン。ここはどこだ? と言うか聖者様とやらはどこに行った」
「ああ、今は王都の門で検問の順番待ちだ。聖者様は
死刑宣告が聞こえた。
「……なあ、アイツが去ってどの程度経った?」
「あ? そうだな……ざっと一時間ぐらいか」
跳ね起き、勢いのまま幌の出入り口へ跳ぶ。
急げばまだ間に合う可能性が無きにしもあらず。
「すまないゴードン話はまた今度なバッ!?」
開かれた幌の出入口。そこに飛び込み、がぃん、と見えない何かに弾かれた。
……ああ、くそったれ。気づくのが遅過ぎたようだ。
「 ミ ィ ツ ケ タ 」
ばんっ ばんっ
幌に手形が二つ。
髪の長い人影が映り、布の切れ目から覗く、二つの瞳。
もはや
うわやだまじ怖い。
「うふふふふ………やぁっと見つけましたよ、お兄様?」
ニタリと笑う悪霊……のようにしか見えないが、一応身内である。
美貌と知性を兼ね揃え、王都の経済を一人で回している、賢者とも呼ばれる存在。
通常時であればカラスの濡れ羽色と称すべき流れるような黒髪に、強い信念を感じられる黒瞳。
胸はそれ程でもないがスタイルも良く、聖母のような笑みを浮かべている、正に絵に書いたような美女である。
決して呪いのビデオの人ではない。ないのだ。
ゴードンの顔色が真っ青になってるが、大丈夫だぞ。これ、生きてる人間だから。
まあ、何はともあれ、逃走失敗である。怖い。
「……久しぶりだな。元気にしてたか?」
「ハァイ元気ですよぉ。ふふ、ふふふふ。
いきなり姿を隠して一年間音沙汰もなしで。
様々な地域から上がってくる発見報告。
確認のために兵を向かわせても、既に去った後で……」
すぅっと息を吸い込むのを見て、咄嗟に耳を塞ぐ。
「 こ の ば か に い さ ま あ あ ぁ ぁ ぁ !!!! 」
感動の兄妹対面は、歌音の叫びと共に訪れた。
……今日はよく馬鹿馬鹿言われるな。
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