決断のとき
キールによって、イケメン包囲網から脱出してきた。今は物置小屋の陰に隠れている状態だ。だが、今もアンナ達を探している声が遠くから聞こえてくる。簡単には諦めてくれないようだ。
「キール殿下、ありがとうございました」
「……いや、それよりも、その、なんていうか……俺は、いいのか?」
キールがおずおずと言った様子で、聞いてきた。
「ええと、どういうことでしょう?」
アンナは首を傾げる。キールが何を聞きたいのか、よく分からなかったのだ。
「だから、俺も、アンナにああやって気持ちを押しつけていた一人だ。だから、さっきアンナが泣きそうだったから思わず連れ出したが、そもそも俺もその資格がないのでは……と」
キールはあるはずのない犬耳(の幻影が)ぺたんと垂れている。しょんぼり、といった表現がぴったりだ。
確かに、キールの杞憂は分かる。
でも、違うのだ。
そう思える時点で、彼らとキールは全然違う。
「キール殿下。私は、相手を思いやって考えることの出来るキール殿下が、大好きです」
あっ……、言ってしまった。
さらっと、何のためらいもなく、気持ちがこぼれていた。
気恥ずかしさに、アンナは視線を逸らす。だが、気になってやはりすぐにキールを伺うように見上げた。
すると、キールは真っ赤な顔をしているではないか。
「キール殿下?」
「あ、あんな……い、いまのは、その、ええと、つまり…………両想い?」
殿方から『両想い』などという言葉が聞けるとは。可愛らしくて、微笑ましくて、萌えが大量発生だ。
「えぇ、両想いですわ」
「じゃ、じゃあ、俺に婚約を申し出たのも?」
「ですから、私は最初から申し上げておりましたよ。ちゃんと考えた上でのことだと」
キール殿下は放心したように固まっている。
かと思えば、急に頭を抱えてしゃがみ込んでしまった。
「あー、意地なんて張らなくてよかったんじゃん!! 俺の間抜けめ!!!」
でも、意地を張ったキールも、それはそれでアンナのことを考えてくれた証拠だ。決して間抜けなどでは無い。
「キール殿下は、いつでも素敵ですよ。ですからお立ちになってください。これからのことを考えましょう」
アンナは手を差し出す。
「……アンナは、かっこいいな。ははっ、自分のことで精一杯なのが恥ずかしいや」
「私はかっこよくなどありませんわ。あえていうならば、年の功でしょうか」
前世のアラサーだった記憶がある以上、キールよりもアドバンテージがあるのは当然だ。
「子ども扱いしやがって。たった一歳だろ。すぐにめちゃくちゃ頼りがいのある男に
なるから」
ふふ、思わず頭を撫でたくなってしまう。ふてくされつつ言っているが、その姿のなんと可愛いことか。うん、どんどん素敵になってよ。こちらだって負けないように成長するから。
アンナはそう思いつつ、意を決して表情を引き締めた。
「キール殿下、大事なお話があります」
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