二択をどうする
どちらかを選ばなくてはならない。
自分の夢である聖女を目指すのか、キールを助けるために彼に婚約を申し出るのか。
アンナはどちらを選んでも後悔しそうで、結論が出せないでた。今までキールの気持ちを作られたものかもしれないと、心の奥底で不安に思っていたから。
でも、その不安が消えた今、今度こそ、アンナは自分の気持ちと向き合わねばならなくなってしまったのだ。
「言い訳が、出来なくなっちゃったな」
アンナは頭を冷やしたくて、外に一人で出てきていた。今宵は満月で、夜でもハッキリと周りがみえるくらい明るい。
クロが付いてくると言ったが、ここは結界も張ってあって安全だし、一人で考えたかったので遠慮してもらった。
夜勤の聖女とすれ違い、軽く会釈をする。
魔物には時間など関係ないから、こうして交代で見回りをしているのだ。こういうことも、ここへ見学に来なければ知らなかった事実。
「やはり、やりがいのある仕事だわ」
前世の記憶がある以上、この世界の令嬢の常識とは少し外れていることは自覚している。だとしても、人生において仕事は重要なファクターだ。
「困ったことに、そもそもキールのこと、嫌いじゃ無いんだよね」
アンナはぽつりとこぼす。
そうなのだ。いろいろ理由を付けて、言い訳をして、向き合わないようにしていただけ。
向き合ったときに出てくる答えは、本当はもう自分でも気がついている。
神様ボーナスで近寄ってきたイケメンも、結局は、アンナのことを気に入ったからアプローチをしていたのだとクロは言っていた。
だとしても、キールだけなのだ。アンナを本当の意味で尊重しようとしてくれたのは。
本当は、今回のグラシムのように、権力をつかって父に婚約を申し込んでもよかったはずだ。でも、キールはしなかった。親ではなく、アンナ本人に申し込んでくれた。この貴族社会で、それがどれだけ特異なことなのか。
そして、アンナの聖女になりたいという夢も、不満げではあるけれど、頭ごなしにやめろなんて言ってこなかった。アンナを尊重しながらも、どうにか結婚できないかと機会をうかがっているのだ。なんて可愛いんだろう。
「ふふっ、キール殿下は本当に、素敵なイケメンだわ」
素敵すぎて、涙が出てくる。
********************
翌日、アンナは朝食後にキールを散歩に誘った。
「珍しいな、アンナから誘ってくるなんて」
キールが機嫌良さげに、アンナの横を歩いている。
この様子だと、やはりまだグラシムの暴挙の知らせは届いていないのだろう。
「キール殿下、お話があります」
「……? 改まってどうした」
不思議そうに首を傾げるイケメン。背後にエフェクトが見えるくらい、様になっている。ぜひチェキで欲しい。
いけない、いけない。思わず前世のミーハー魂が暴走してしまうところだった。
アンナは呼吸を落ち着け、ゆっくりとキールを見上げる。
「私と、婚約していただきたいのです」
言ったぞ。言い切ったぞ。
さぁキールの反応は?
大喜びするのかしらと内心どきどきしながら、キールの様子を伺う。
あれ、眉間に深々としわを刻んでいるではないか。
まったく喜ぶ素振りがない。
キールは……実は、私のことが……、好きでは、なかっ……た???
あまりに予想害の反応に、アンナの頭のなかは真っ白だ。
やだ、恥ずかしすぎる!
勝手にまだ好かれてるってうぬぼれてたなんて……。
「なんで急にそんなことを言う?」
キールは歯ぎしりでもしそうな表情で問いかけてきた。
「あ、あの……殿下。これには、いろいろとわけがありまして」
「やっぱり」
キールは黙り込んでしまった。
どうしよう。この最悪の空気感を打開するすべを誰か教えて欲しい。
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