とある真相
今晩中に答えを出さなければ間に合わない。それは頭では理解している。でも、心が迷子のままなのだ。
前世の記憶を思い出してからは、ずっと大聖女を目指してきた。勉強も、生活態度も、すべて模範となるように。そうすれば、聖女へ推薦してもらえる道があったから。
目標がはっきりしていたから、迷わずに進めていた。
でも、キールが現われてから、心の中がかき乱されることが多くなった。目の前で、自分好みのイケメンが、必死にアピールしてくるのだ。可愛くないわけがない。
何度も心が揺れた。そのたびに、前世での痛い記憶を引っ張りだし、冷静さを取り戻そうとした。
『アンナ、どうしたニャ?』
クロが膝の上に乗って、見上げてきた。
どうやら放心状態のまま、部屋に戻っていたようだ。
「クロ……私、どうしたらいいのか、分からないの」
何のために聖女を目指していたのか。それが一気に分からなくなってしまった。
自立のためだったら聖女じゃなくてもいいのではないか。でも、聖女だって必要な職業だ。社畜時代では仕事の意義も見いだせなかったが、聖女は目に見えて人々の役に立てる。
でも、キールを見捨てるのか?
身近な、大切な……友人を、死ぬと分かっているところへ黙って行かせていいとは思えない。今なら手が打てると策も提示されているというのに。
そう思っても、一番の不安が拭えないから、どうしても決断が出来ない。
アンナは、先ほど大聖女との会話内容を話した。
『アンナが一番、迷っているのは、なんニャ? 聖女を諦めたくないってことニャ? それとも、別に気になることがあるニャ?』
「クロ……もしかして、気付いてるの?」
『そりゃ、一番近くに居るの、誰だと思ってるニャー!』
クロがアンナのお腹にポスっと猫パンチを入れてくる。全然痛くもないけれど。
「わたしね、キールの気持ちが、怖いの。本当に、彼自身の心で私を好いてくれているのか分からない。もしかしたら神様によって作られた気持ちかも。そう思うと、自分の気持ちを返すのが、怖くてたまらない」
キールをアイドルだと思って、リア恋などしない。そう言い聞かせてきた。一方通行なら傷付かないから。
でも、キールは諦めずに、ずっとアンナに好意を行動で示してくるから。いくら自分自身に言い聞かせていても、本当は、ぐらぐらと心は揺らいでいた。
『……本当は、言っちゃいけないんニャけど…………アンナがとっても辛そうだから言うにゃ』
クロはアンナの膝から降り、床の上に座る。そして、まっすぐにアンナを見上げてきた。
『キールは、神様ボーナスで寄ってきたわけじゃないニャ』
クロの衝撃的な告白に、アンナは一瞬頭の中が真っ白になった。
「そ、それ、本当なの?」
『こればかりは信じてもらうしかニャいけど……。ただ、アンナは一つ、大きな間違いをしているニャ』
「な、なに?」
『神様ボーナスはきっかけに過ぎないのニャ。会った後は本人の気持ち次第ニャ。つまり、しつこい奴らはアンナに正真正銘に惹かれて、気に入っているからアプローチしていたんだニャ』
そんなこと、急に暴露されても……。だって、前世は浮気されるばかりのアラサー女子だったのだ。自分に惹かれてとか言われても、全然、現実味がない。
『だから、アンナは誰の気持ちを疑うこともしなくていいんだニャ。キールは神様ボーナスじゃにゃいけど、もし仮にそうだったとしても、一番アプローチしてきているってことは、それだけアンナのことが好きってことニャ』
クロの言葉に、急にキールのあれこれを思い出して、顔が熱くなってきた。
え、本当に?
キールはちゃんと心から好きでいてくれた……んだ。
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