神様の欲求とは
キールに寮まで送ってもらい、自室に戻った。
「クロ、明日から大聖女様のところへ職業体験へ行くことになったわ」
ベッドの上でゴロゴロしていたクロは、ピンっと尻尾を立てた。
『にゃに? 職業体験? ダメにゃ、そんなの聖女にまっしぐらにゃ!』
身軽な様子でトンっと床に降りると、アンナの足下にまとわりついて抗議してくる。
「聖女まっしぐらで良いことじゃない。それにね、校長先生はグラシム殿下から目をつけられてしまった私を、安全なところへ避難させたいっていう思惑もあるのよ」
『あー、確かにグラシムはにゃあ……んにゃ、でも、それじゃ神様ボーナスが!』
「もういい加減諦めてくれても良いのに。私のためを思うなら、聖女への夢を応援してよ」
『まだにゃ。確かに神様はちょっと忙しくて人選が適当になってたのは認めるにゃ。でも、アンナのためにっていう気持ちは本気にゃ!』
タシン、タシンと尻尾が床を叩く。
「そうだったね、ごめん。そんなに興奮しないでよ、クロ」
ありがた迷惑な神様ボーナスではあるが、こうしてクロを付けてくれている配慮は感謝している。いろいろ相談できるし、気を遣わなくてもいい相手が側にいるのって楽なのだ。ナターリアとは違った意味で、親友と言えなくもない。
『んにゃ。付いていくからにゃ!』
「えー、あくまで職業体験だよ。別に聖女になるって訳じゃないし」
『邪魔する気はないにゃ。そりゃちょっとは誘導するかもしれにゃいけど。でも……なんていうかにゃ、グラシムが何か企てていそうで心配なんだにゃ』
「グラシム殿下もどうせ神様ボーナスなんでしょ? 心配するような人選しないでよ」
『……面目ないにゃ。でも、グラシムが神様ボーナスかは分からにゃいにゃ』
「そうなの? でもどのみち迷惑には変わりないけど。それより付いてくるなら見つからないように上手くやってよ?」
『もちろんだにゃ!』
鼻息荒く返事をするクロにため息を付きつつ、さっそく職業体験にいく準備を始めるアンナだった。
ひとまず職業体験は十日程度と聞いている。十日もあれば、グラシムも学園に飽きて城に帰るのではという目論見だ。アンナも目障りなキールも不在で、そして外出も基本的には許可制だったりと、グラシムにしてみたら窮屈な学園生活だろう。つまらなくなって学園から出てってくれたら最高だ。
だが、もしそうはならなかった場合。仮にグラシムが何か企んでいるとして、十日あれば仕掛けてくる可能性は高い。グラシムの性格上、練りに練って好機をじっくり待つということは出来なさそうだし。
もし仕掛けてきたとしても、大聖女の側にいれば安全度が増すだろう。何せ国王ですら一目置かなくてはならない相手だから。
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眠りに就いた、夢の端っこの方で会話がおぼろげに聞こえてくる。
『神様。手当たり次第にイケメンを送ってくるのやめてほしいにゃ。特にグラシムって奴はやばいにゃ』
『でもキールに対抗できる相手がいなくてさ』
『にゃ……やっぱり神様の采配にゃのか』
『だって悔しいじゃないか』
『悔しいって、何がにゃ?』
『大賢者が僕にケンカ売ってきてることに気付いちゃってさ。てっきり、偶然にキールが現われたんだと思ってたんだ。でも最近手が空いてきたからゆっくりアンナを観察してたら、アンナの側に大賢者がいるんだもん』
『……どうでもいいにゃ! 神様と大賢者?とやらのいがみ合いは知ったことじゃないにゃ。アンナの幸せを考えるにゃ!』
クロが神様にたてついている。
いいぞ、もっと言ってやれ。と、アンナは頭の片隅で応援する。
にしても、大賢者って誰のことだろうか。
大賢者という呼び名からして何かすごそう。
『考えているさ。彼女は前世からイケメンが大好きで、今だって内心イケメンを見てははしゃいでるじゃないか。だから彼女の好きなイケメンを次々に手配してるし、玉の輿になるようにステータスも吟味してるだろ。何か間違っているかい?』
『間違ってにゃいけど、でも、あってもいないにゃ』
神様って人間じゃないせいか、どことなくピントがずれてるっていうか。
人間には感情ってものがあるんですよと言いたくなる。
それに比べて、クロはずっと自分の側にいたせいか、だいぶ人間くさいことを言うなと思った。
『どちらにしても、リミットはこの世界の成人になる日だ。それまでは玉の輿の結婚を譲る気はないよ』
『神様も頑固にゃ』
『そりゃ神だからね。自分が導きたいという欲求にはあらがえないのさ』
へぇ、知らなかった。
神様にもそういう欲求があるんだ。
そんな風に思っているうちに、声はどんどん小さく遠くなっていく。
気付けば朝になっていた。
そう、出発の朝だ。
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