【間章】校長の思惑

キールside


アンナを寮まで送った後、キールは校長室へと向かった。


「校長、なぜグラシムの編入を認めた」

「断り切れなかったんですよ。第二王子が通っているのに、どうして第三王子が通ってはいけないのだって言われたら……」

「俺が通っているからこそ、あいつが通うべきじゃないだろう」


 キールとグラシムの仲は最悪といっていい。

 キールとしてはグラシムが何をしていても、こちらに害がなければ気にならない。だが、グラシムは違うようで何かと難癖をつけてくる。

 この学園にしろ、当初はキールが通うと決めたら、グラシムの方が「じゃあ行かない」と言いだしたのだ。

 代々の王族は王立学園に通うか、隣国に留学するかの二択だ。グラシムは学園への入学も隣国への留学も面倒だから嫌だと拒否した。だが、王家としては下手に学園内でケンカされるのも、隣国に迷惑を掛けるのも困るという考えもあって、グラシムの我が儘を認めたはずだったのに。


「どこからか、キール殿下が楽しく学園生活を送ってらっしゃることが伝わったらしいですよ。まったく、困ったものです」

「嫌がらせのために編入とか、本当に性格ねじ曲がってるな、あいつ」

「ですが、そのせいでアンナ嬢が目をつけられしまいました。ただでさえ彼女はいろいろと面倒な輩を引き寄せがちだというのに……」


 校長先生が困ったように息を吐いた。

 ……面倒な輩のなかに俺は入ってないだろうなという不安がよぎるも、尋ねて肯定されるとショックだからやめておくキールだった。


「キール殿下。あなたを見込んでお話ししますが、アンナ嬢の魔力には異世界の香りが少し混じっています。呪い……とは違うかもしれませんが、何者かの作為の香りです」

「異世界……呪い……」


 ここではない世界って、いったい何だ。しかも呪いだって?

 キールは首を傾げるが、校長先生は構わずに説明を続けた。


「わたしは多くの生徒を見て来ましたからね。いろんな子がいましたし、アンナ嬢のように異世界の香りを感じた子も過去にはいました」

「だ、だが、アンナが呪われているようには見えないが」

「アンナ嬢にはステータスの高い男の人が寄ってくる傾向があります。もちろん、彼女が魅力的だということもあるでしょうがね。それにしても数が異常です」


 キールは嫌な予感がした。自分は王子だ。もしや呪いとやらでアンナに? でも、アンナが好きだと思う気持ちは呪いなんかじゃない。


「キール殿下、そのような不安な顔をしないでください。殿下は違いますよ。だって、わたしがあえてアンナ嬢との接点を作ったのですから」


 校長先生が不敵な笑みを浮かべた。


「何故だ。実験でもしたかったのか?」

「本音を恐れずにいえば、試したかったのは事実です。でも、キール殿下の様子を拝見して賭けてみようと思ったんですよ。入学時からあなたは実に周りをよく見ていて、できる限りの配慮をしようと試みていた。だから、アンナ嬢に会わせてみたくなったんです」

「それは……俺を信頼してくれたと思って良いのか」

「さようですよ、殿下。ですから、キール殿下が良いと思うように、アンナ嬢を守って欲しい」


 呪いが本当かどうかは自分には判断がつかないが、グラシムがアンナに目をつけているのは事実。このまま学園にいては危ない。


「俺が、アンナを守ってみせる」


 キールは決意を込めて校長に告げた。

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