乱闘起こる?!
ナターリアと交流会のエスコートの話をしていたアンナ。
すると、未だかつてない程の、厳めしい形相で立ち尽くしているキール殿下がいたのだった。
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「アンナ、今の本気か?」
キール殿下が、歯ぎしりでもしそうな様子で声を絞り出した。
な、なに? 子犬がぷるぷるしながら、抗議してるみたいな……。怒ってる(らしい?)表情もなんて可愛いの! はわわ、と変な声が出てしまいそう。
「今の、とは?」
変な声が出ないよう、アンナは必死に腹筋に力を込めて普通の声を出す。
「だからっ、ナターリア先輩をエスコートするってやつだよ」
キール殿下の頭に見えないはずの犬耳が見える。興奮気味にピンって立ってるけど、次第にへにょって折れちゃう。うう、幻覚さえ見え始めた。やばい、キール殿下の可愛さがどんどん増していく。
可愛さ余って、憎さ百倍! 絶対に引きずられてなるものか!と、アンナは拳を握る。
「別に、わたくしが誰をエスコートしようと、もしくは誰にエスコートされようと、殿下には関わりのないことだと思いますが」
「ちょっとアンナ、言い方考えなって。殿下泣いちゃったらどうすんのよ」
「な、泣くわけないだろ!」
そういう割には、キール殿下の目、ちょっとうるうるしている気がしないでもない。あまり突くと可哀想なので、話を進めてあげよう。
「キール殿下、二年の教室までいらっしゃるなんて、いかがされたのですか?」
「そ、それは……交流会のエスコートを、その、なんていうか」
キール殿下はもじもじしながら、言いよどんでいる。
あれ、殿下ってこんなに幼いかんじだったっけ? もうちょっと、精神年齢高めだったはずなのに。殿下の中で何かあったのだろうか。
「ほら、アンナが変なこと言うから、殿下が誘いにくくなっちゃったじゃん」
ナターリアに、バンッと背中を叩かれた。地味に痛い。
というか、本当に自分を誘う気なのか? 確かに、キール殿下としても、立場的に誰か一人を誘うのは波風が立つだろう。かといって、ただの男爵令嬢でしかないアンナを誘うのは、もっと波風が立ってしまうと思うのだが。
「キール殿下? あの、無理して言う必要はありませんよ。エスコートに関しては、先生方も相談に乗ってくださいますし。今日の帰りにでも、ご相談しに行きましょうか」
「んなっ、子供扱いするな! 俺は、アンナをエスコートしたい! だから、誘いに来たんだ!」
キール殿下が顔を真っ赤にして叫んだ。
え、え、マジで?
マジで可愛くてツボなんですけど。萌えの塊や!(※杏奈は関西出身ではなかったが、興奮のあまり急に訛りが発生した模様)
いやいや、違う。萌えに狂喜乱舞している場合ではない。今、キール殿下にパワーワードを言われてしまったのだ。
「アンナ、殿下にエスコートしてもらえば良いじゃん。二年連続で校長先生とかないわー、ないない」
「だ、だよな。ナターリア先輩は分かってる!」
キール殿下とナターリアが希望に満ちた顔でこちらを見てきた。可愛い年下イケメンと可愛い女友達のコンボに、視界が華やぎまくっている。
「殿下のお誘いは嬉しいのですが、やはり身分が違いすぎますわ。無用な軋轢を生むべきではありません。そうだ、お二人が宜しければナターリアと殿下の組み合わせは如何でしょう? ナターリアは伯爵家の出ですが、お祖母様は王家の方ですのよ」
アンナはここぞとばかりにナターリアをプッシュする。
すると、クラスの中がざわつき始めた。何故だ?
「それは良い案だ、アンナ。殿下とナターリアならバランスも良い」
急に割り込んできたのは、トニーだった。(アンナに無理矢理キスしようとしてきた不届き者である)。しかし、アンナにとっては、最悪の人物でしかない。なんでこんなややこしい場面で出てくるのやら。
「殿下がナターリアと組むとなったら、アンナにエスコートを申し出てもなんら問題はない。ということで、俺はアンナにエスコートを申し出る」
トニーが演説でもするかのように、朗々と言い放つ。すると、クラス内の男子生徒も次々に俺も俺もと手を上げ始めた。
嘘でしょ!
男子生徒達に囲まれ、どんどん壁際に追い込まれる。鼻息の荒い男達の圧に、恐怖しかない。
めっちゃ怖い。
去年の悪夢が蘇る。このままいくと、また乱闘だ。頭に血が上った彼らは、殴り合いを始めたら、アンナのことなど眼中に入らなくなってしまう。去年はそのせいで怪我をしそうになった。(幸いにも校長先生の仲裁のお陰で事なきを得たが)
「やめて……わたくしのために、争わないで……」
人生でこんな台詞を吐くときが来るとは思わなかった。前世で自分に酔ったみたいにこの台詞を言ってるドラマのヒロインを見たことがあるが、正直、視聴者としては「何言ってんだww」と鼻で笑っていたものだ。でも、今なら分かる。自分のせいで、争うのは本当にやめてほしい。
「やめろ! アンナが怯えてる」
キール殿下の声が響く。と同時に、騒いでいた男子生徒達にも冷静さが戻っていく。
「……っ、キール殿下」
アンナは、キール殿下の背中に庇われていた。
さっきまで幼児化したのかなと思っていたけれど、今度は急に頼もしい背中を見せつけてくる。アンナを守ろうと、年上の男子生徒達を一人で睨み付けていた。その眼圧たるや、やはり王族のせいなのか、半端なく強い。その頼もしい後ろ姿に、今までに無い『きゅんっ』が生まれてしまう。
ずるい。可愛いだけで無く、イケメンで、強くて、守ってくるだなんて。
「アンナ、俺にしとけよ。そうすれば……その、話は丸く収まるだろ?」
キール殿下が伺うように、ちらっと振り返った。
んがぁぁぁ、萌え死ぬ! さっきまでバリイケメン王子様だったくせに、瞬時に子犬化するとか、わたしをどーしたいんだよ! とアンナは心の中で叫びまくる。
もう、今回に関しては白旗だ。
「わ、わかりましたわ。殿下にエスコートをお願いいたします」
アンナは萌えが飛び出ないよう、我慢して言った。我慢のせいで握りしめた拳が震えてしまったけれど、まぁ些細なことだ。
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