海辺の明け方
- 海辺の明け方 -
目が覚めた。聞き慣れない波の音がする。隣でまだ寝ている気配がする。身体を起こして時計を探す。
「あ、この旅館時計なかったんだった」
仕方なくスマホを起動させる。ブルーライトが目を焼く。5:46。二度寝するには目が覚めすぎてしまった。隣を起こさないように布団から抜け出す。敷居を踏まないように気をつけて窓際に行く。カーテンを開けてみる。まだ外は薄暗い。波の音。窓を開けると少し肌寒い風が入ってくる。少しだけ空が明るんできた。明け方の時間は静かだ。
「もう、起きたの?」
寝ぼけた声。布団の方を見れば彼女は目を擦りながら身体を起こしていた。私はとりあえず謝罪の言葉を口にする。
「ごめん、起こしちゃった?」
「動く気配でね」
はにかみながら彼女はこちらにくる。
「まだ眠いんじゃない?二度寝もできる時間だよ?」
「でも、君は起きてるんでしょ。じゃあ私も起きる」
「そっか」
彼女は私の向かいに腰掛けた。
「こんなに早く起きたのいつぶりだろ」
「いっつも寝坊してるもんね。こんな時だけ早く起きるなんて。おかげで私まで起こされちゃうし」
「いつもと違うとなんか目が覚めちゃうんだよね」
「それはなんかわかる」
他愛もない会話を繰り返しているうちに空は段々と明るさを増していく。日の出ももうすぐだろう。
「今日はどうする?」
「うーん…近くに有名な神社があるって聞いたからそこに行ってみたいなぁ」
「へー!いいね。あとせっかくだから海とか行ってみたくない?」
「確かに!こんなに近いもんね」
海といえば、と彼女が続ける。
「砂浜をきゃっきゃっうふふって感じで走るなんて機会普通ないよね」
「確かにそうだけど、急にどうしたの?」
「よくイメージで使われるじゃん、浜辺を走るカップル」
「あーそうだね。……やる?」
「ええー?側から見たらやばいやつじゃない?」
「いいじゃんいいじゃん」
笑い声が部屋に響く。日が出てきて海辺を照らしている。私はどこへ行ってもいいんだ、なんて心の中でつぶやく。二人ならどこでも。
日常の境は曖昧なまま 雨月ゆひら @yuhira121
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。日常の境は曖昧なままの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます