早朝、5:30の灰色
酷い夢を見た。部屋が薄暗い。夢を見たせいで心が明かりを求めない。時計は五時半を指している。カーディガンを羽織り、台所に向かう。寝起きに紅茶を飲むのは最近のお気に入りだった。
やかんを火にかける。床が冷たい。暖房をつける気は起きなかった。火から伝わる熱。椅子に体を預けて火を見つめる。周りの油汚れが酷く気になった。
やかんの鳴る音。慌てて目を開ける。いつの間にかうたた寝して居たようだった。さっきよりも少し明るくなり、あたりは灰色を帯びている。カップにお湯を入れ、ティーバッグを落とす。もう一度椅子に座りなおす。沈黙。時計の音。針は五分も進んで居なかった。目を閉じると、顔が浮かんでくる。あの人だ。夢に出てきた人。……私の好きだった人。もうあれから何年経つ?想いを伝えることのないまま会わなくなってしまった。三年、いや四年かもしれない。記憶の中ではぼんやりとしか思い出せないのに、今日の夢はやけに鮮明だった。あの時と何一つ変わらなかった。あれはあの人本人ではない。あの時から私は変わった。それだけの月日が過ぎた。きっとあの人も変わっている。あれは私が作った幻覚。目線を下に落として溜息をつく。いつだか聞いたことがある。夢は願望の表れであると。つまり、私はあの人に会いたいのか。笑いかけて欲しいのか。もう会う事は無いのに。
ティーカップが視界に入る。カップの中の茶色はとても濃くなってしまっていた。興味本位で一口すする。
「渋い」
酷く苦い汁は行き場の無い想いと共に腹の中で積もる様だった。
「本当に酷い人」
言葉と共に茶色を流しに捨てる。
カーテンの隙間からは灰色が見えた。
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