第34話居酒屋で2
居酒屋は羽風が酔っぱらいだした頃には、客の出入りが激しさを増して、大盛況となった。
店内が酔っぱらいの怒鳴り声とグラスとグラスのぶつかり合う音やビールジョッキとビールジョッキのぶつかり合う音で騒々しさが増していた。
俺の隣に座る羽風は、40分ほど前から頭をゆらゆらと揺らして、海音ぉぅ〜海音ぉぅ〜と呂律の回らない舌で呼び続けている。
目を離すと怪我をしそうなほどの出来上がりっぷりに、気が気でない俺だった。
焼き鳥のももとかわ、ぼんじりが載っていた三枚の皿には三本の串が置かれ、グラスとビールジョッキは空になっている。
俺の前のカウンターテーブルには、山のように盛られていた枝豆の潰れたからが捨てられた底の深い大皿と冷奴が載っていた小皿と、焼き鳥のももが載っていた一枚の皿、カルピスサワーが注がれていた空のグラスが置かれている。
俺の脳はまだ意識を保っている。
「……んでぇ、あかさぁさは……うっぷぅっ……しぃをぉ、残……してぇ〜」
隣の彼女の様子を窺っていると、聞き取れない言葉らしきものを呟き、吐きそうな表情を浮かべ、口を片手で塞いでいた。
視界に入っている彼女の横顔——頬に涙が流れたひと筋の跡を見て、喉のあたりに激しい熱さを感じた俺。
彼女が口を塞いでいないもう片方の手をカウンターの下に潜らせ、ごそごそと太腿の上に載せていた光沢を持ったハンドバッグから黒の手帳を取り出し、挟まれていた一枚の写真を眺めだした。
俺は、彼女が眺めだした写真を覗き見た。
海を背に高校の制服姿——ブラウスにプリーツスカートの羽風と阿嘉坂が肩を組み合って笑っている写真だった。
高校時代には見られなかった阿嘉坂先輩の満面の笑顔が、その写真にはあった。
ふと、あの光景がフラッシュバックして、鈍い痛みが頭を襲う。
俺は、鈍い痛みに堪えられず、両手で頭をおさえる。
頭を襲った身に覚えのない鈍い痛みが思考を鈍らせる。
このっ……かん、かくは……この、胸までざわつかせる感覚は……?
過去に、遡れば……この説明の出来ない胸をざわつかせる感覚を、掴める……かも、しれない。
会社帰りに絡まれていた可愛い女子高生を助けたら 闇野ゆかい @kouyann
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