第30話乱入者
会計を済ませ、カフェを出ると左から勢いよく迫る足音と声が聞こえてきた。
「あっ!いたいた〜ぁっ、いー兄っ!はぁはぁ……こんなとこで油を売ってるなん、て……人妻と密会とはいー兄もやるよっ——ってぇッ!痛いって、痛いから止めてッッ!ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいッッ!」
「……」
無言で夏美の頭に拳骨をゴリゴリとめり込ませる俺。
二分ほど続く頭にめり込まれた拳骨の制裁に音をあげる夏美だった。
「そろそろ止めてあげなよ、いーちゃん。彼女の頭が……」
夏美を心配し、助け船を出す明石先輩。
明石先輩がそう言うなら……明石先輩に免じて、止めることにした俺。
「あぁああぁーじぬがと思ったぁー……あ、ありがとう、ございます……奥さ、お姉様。えっと……」
夏美は俺を視界に入れようとせずに明石先輩に向き直り、お礼を口にした。
「明石希咲さん。高校ん時の先輩だ、明石さんは。失礼だろうがっ、人妻ってぇのはぁっ!確かに雰囲気はそうだが」
「失礼って言っときながら、いーちゃんもじゅうぶんに失礼だよね。あの人らに……言われたこと、ないのに……」
「つっつい、口が……冗談ですよ冗談……」
「えっと、ごめんなさいっっ!しぃっ、失礼なことをっ……」
「良いのよ、気にしてないわ。頭を上げてちょうだい、あなた」
勢いよく頭を下げ謝る夏美に柔らかい声で返す明石先輩。
「は、はい……」
緊張を含んだ声音で返事をした夏美。
こっこの口調……もし、もしかして……
俺の身体に一瞬だが、寒気が駆け巡った。
俺の一瞬の身震いに夏美が気付き、頬を強張らせる彼女。
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