第29話昔話1—2ここに居るのが場違いな気が

陽が沈みだし、辺りが暗くなり始め、空を染めていた朱色は狭まっていた。

ホースの奪い合い合戦を繰り広げながらもプール掃除をなんとか終え、俺と明石らはプールサイドに置かれたカラーベンチに腰を下ろして、一息ついていた。

「ありがとうねぇ〜西條く〜んっ!助かったよ〜」

「どういたし、まして……一時はどうなるかと——」

「終わったんだから良いじゃ〜ぁんっ西條く〜ん!細かいこと言わな〜ぁいのぅーっ!」

俺の右隣に座る明石がバシバシと肩を叩きながら僅かに口を尖らせながら弾んだ声をあげる。

「痛ぁっ、痛っいですよ先輩っ……痛ぁっ、痛い」

「その辺にしてやれよ、希咲っち。西條くんが歪めてるから、顔を」

「まなみん〜恐ぁ〜いぃ!ちぇ〜っ。はいはぁ〜いぃ、やめますよぅー」

ベンチの右端に座るまなみんと呼ばれた先輩——羽風眞奈美はかぜまなみは風で靡くウルフカットの髪を左手の指先で撫でながらひとりごとのような声量で呟く。

「気乗りしねぇような返事すんなよ、ったく……」

「えっ何て?まなみん、もう一回言ってぇ〜」

「何も言ってねぇっ!さっさと食って帰んぞ!」

「言ってたってぇ〜まなみん。ねぇー言ってたよね、ほののん?」

「えっ何、明石?」

話を振られた明石の隣に座る先輩がきょとんとした瞳と顔を彼女に向けた。

「聞いてなかったの、ほののん?アイスに夢中過ぎぃ〜ほののんは相変わらずだなぁ〜!」

呆れながらも相変わらず楽しそうな明石。

「まなっちゃんの奢りのアイスは貴重なんだから溶ける前に食べないと!明石はだべり過ぎ。まなっちゃんの奢りを無駄にする気ッ?」

パルムを舐め続けながら、捲し立て明石に詰め寄る美杉帆乃美。

眼鏡のレンズの奥の瞳がギラッと光が宿ったように錯覚を覚えた俺だった。

「あはははっ、ほののんってば大袈裟だなぁ〜!貴重って、珍しいのは事実だけどさぁ!この先、まなみんに奢ってもらえることが無さそうだし無駄に出来ないねぇ〜」

詰め寄る美杉に臆することなく、会話を続ける明石だった。

「お前ら、おちょくってんのかァ?」

「私はおちょくってないよっ。明石だよ、おちょくってるの」

「親友を売るなんて、なんてやつだぁっほののんッ!許してぇッ、まなみんッ!眞奈美様ぁーーッ、やめェッ、やめてくださぁいぃっ眞奈美様ぁーーッッ!ぎゃあぁーーッッ!」


「コラァーッ、待てェやァ〜ッッ希咲ァァ〜ッッ!」

「許してぇ〜ッ眞奈美様ぁ〜ぁッッ!ねぇー許しっ……許じてェッ……まなぁ、み様ぁ……」


プールサイドを逃げ回る明石は羽風に捕まり、ボコボコにされた。


これまで無言を貫いていた阿嘉坂先輩とは、別れる際に交わした挨拶で声が聞けた。


俺は先輩らと別れ、帰宅したのだった。






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