第28話昔話1—1断りきれずに

※※※


俺が所用で校舎から離れたプール施設を横切っていると、頭上から声を掛けられた。

「おぉ〜い、後輩くん。良いところに、ちょっと良いかな?」

足を止め、顔を上げると明石希咲が笑顔を浮かべながら手招きしていた。

「……?はい……」


プール施設に上がった俺を迎えたのは、明石希咲と三人の女子だった。

体操服姿でデッキブラシを握りしめる四人の女子。

「えっと、これは……」

「いきなり呼び止めてごめんね。プール掃除、手伝ってほしくてさ。お願いっ!無理……かな?」

顔を下げながら両手の掌を合わせながら懇願する彼女。

「無理では、ないです……分かりました、手伝います。僕は何を——」

明石が頭を下げてる背後にいる女子三人が、申し訳なさそうな表情で浅く頭を下げたので、断ろうにも断れずに手伝うことにした。


「ごめんね、後輩くっ……えっと、君の名前を——」

「あっ、西條です……」

「西條くん、だね……ウチらの掃除を手伝わせちゃってごめんね、ホント。後輩を巻き込みたくなかったんだけど、希咲っちと阿嘉坂が手伝ってもらおうってきかなくてさ……お礼はキッチリするから。西條くん、ありがとうね」

「いえ……はい、どういたしまして」

「あ、西條くん……あぁ〜っと、くれぐれも希咲には気ぃつけなよ。西條くんが思ってるほどあいつは——から」

「あっ今なん——」

目付きが鋭く茶髪のウルフカットの女子が口にしようとした肝心な言葉が風が吹いて聞き取れなかった。

風の勢いで閉じた瞼を上げ、聞き返そうとしたが彼女は明石らの元へと駆けて聞けなかった。

手渡されたデッキブラシを両手で握りながら、彼女は何て言おうとしたのか思考する俺だった。


彼女あのひと、気さくだったなぁ……


プールサイドからプールの底へとおりていき、明石らと共に頑固な汚れを落とし始めた俺。

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