第18話嫌いにならないよ

※※※


私は夏美が泊まり込んでいる彼女の兄が住むマンションへと彼女の兄と並び、足を踏み入れた。


彼女の兄と聞いたが、歳上の異性が住むマンションの一室に踏み入れるというのは怖い。


心臓、バクバクでお兄さんに心音が聞こえてないか心配だ。


リビングで啜り泣く彼女が視界に入り、胸が締め付けられ、こみあげそうな涙を堪えながら彼女に近づく。

「なっつん……なんで泣いてるの?なっつんの泣いてる姿なんて見たくないよ……」

「あやちゃん……んで来た、の?」

洟を啜りながら、名前を呼んで訊いてきた彼女。

「なっつんが心配で……なっつんが隣で笑って、くだらないような話で盛り上がってるときが……当たり前に過ごせてた日々が楽しかったことに気付いて、無性に会いたくって……」

「私も……たしも、楽しかった。あやちゃんといるときがほんと、楽しかった。あやちゃんに生意気なことばっか言ってごめん。傷付けてばっかでごめん……私なんてあんなこと言える資格ないのに……」

堪えようとする嗚咽は彼女の意思に逆らうように漏れている。

「そんなこと、ないよ……そんなこと思ったことないよ、なっつんに。なんでそんなこと言うの……?なっつんにそんな表情かお見せてるつもり、ないよ……親友だちだって——」

膝を抱え、顔を上げようとしない彼女が自身と重なり——震えが止まらない手を懸命に堪えながら、彼女の肩を揺する。


——好きだよ、なっつんのこと。大好きだよ、あの日からなっつんのこと。なっつんを嫌いになんてならないから。


私は彼女を抱きしめ、そう囁き続けた。

泣き続ける彼女の身体を——ぬくもりを包み込む。

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