第52話 将来の夢

 朝の学校のホームルームで、皆へ先生から1つのプリントを配られた。それは、将来どんな仕事に就きたいかや行きたい大学などを記入するものだった。


 もうすぐ冬休みに入り、3年になれば受験生となり忙しくなる。もうそろそろ、目指す目標を決めなくてはと自分は焦っていた。


「将来の夢って皆、どう考えてる? 大学とかもう行きたい所とか決めてるのかな?」


 昼休みにいつものメンバーで集まり、配られたプリントのことについて話しながら昼ご飯を食べる。


「私は、お金貯めて自分のメイド喫茶を立ち上げる事が夢!」


 輝色きいろちゃんは、好きなことを夢にするらしい。彼女らしさのある目標だった。


「俺はもちろんサッカー選手。推薦で大学入ってそこでもサッカー続けるつもり」


 涼は小さい時から変わらず、サッカー選手になることが夢だった。練習しているところや試合を見ている僕は、とても応援している。


「あ、あたしは……」


 あかねは、なぜかモジモジしながらこちらをチラチラと見てくる。逆に用があるのかと本人の方を向くとそっぽを向かれ、嫌われているのではと思ってしまう。


「な、何? なんか言いかけてたけど」


 こちらから話しかけると、彼女は勢いよく将来の夢を叫んだ。


「だ、だから、お嫁さんよ! お嫁さんになりたいの! って何言わせるのよバカ!」


 それは、将来の夢というより願望のような気がする。クラスメイトがざわつき始める。殺意の視線が僕に集中した。


 聞きたかった答えとは違ったけれど、可愛い答えだった。


 一方で僕は、まだ何もない。空っぽのままだった。何かが欲しい。生き甲斐といえるものが。目標が。


 家に帰った後、またあの絵本を読み返す。今思えば、全てはここから始まったと言っても過言ではない。


 これは元々、母さんが書いたものであること。この絵本には、とても救われている。


 こんな物語を、僕も……。


『やりたいことなんて近くに転がってるもんだから』


 ここで過去に言っていた、腹黒ふくぐろさんの言葉を思い出す。


 それなら、書きたいと思っているものも近くにあるかもしれない。


 学校の昼休みに僕は、図書館へと通うようになった。


 そこには、歴史、生物、科学、ライトノベルなどの様々な部類の本がある。


 小説を書くには膨大な知識が必要だ。それにいろんな本を読めば、どんな物語を書きたいのか分かるかもしれないと思い、読んでみようと考えたのだ。


 放課後も、少しだけ図書館によっていこうと足を運ぶ。すると、図書館へ行く途中で紫微垣しびえんさんと出会う。


「えへへ〜、こんなこともあるんだね。図書館にゆっ君も用事?」

「あぁ、うん。図書館の本って前までちゃんと読んだこと無かったから、3年生になる前に読んでみようかなって」

「私も、一緒にいていい?」


1人で読もうと思っていたが、別についてこられて困ることもなし、一緒に行くことにした。


図書館についた僕たちは、一緒に館内を回った。生物に関する本のように専門的な本もあれば、童話やミステリーなど様々なジャンルの本が並んでいる。


彼女は美術に関する本を探している。デッサンの参考にするのだとか。一方僕は、星に関する本に目がいき、それを手に取る。


絵本にも出てきた星というものに、興味を持ちもし関係する本があれば読んでみたいと思ったのだ。


「何読んでるの? 見せてよ」


本を読んでると彼女も気になるのか、こちらに椅子を寄せて密着し顔を覗かせる。


「星に関する本だよ。参考にしようと思って」


彼女にも見せてあげると、あの頃のことを思い出したのか目を輝かせる。


そんないろんな表情の中でも、彼女の笑顔に僕は目を奪われていた。


いきなり紫微垣しびえんさんに声をかけられ、いつの間にか至近距離にいる彼女に驚き後ろにこける。


椅子が倒れたせいか、館内で大きい音をだしてしまったため館内を利用している生徒から視線を感じる。


さっきの動悸はいったい何だったのだろうか。思考している間、紫微垣しびえんさんに声をかけられ心配かけないように立ち上がり再度椅子に座る。


ここでなぜか彼女は不満げな顔を見せた。


「どうしたの? 具合でも悪いの?」

「ねぇ、いつになったら私を名前で呼んでくれるの?」


館内では大きい声が出せないためか、僕の耳元で囁く。


僕は顔や耳が赤くなり、今にも緊張で心臓が張り裂けそうだった。いや、裂けたらダメだけどね。


しかし、確かに紫微垣しびえんさんのことを、名前で一度も呼んだことがないかもしれない。


なぜかは分からないが、多分もう答えは出ているんだと思う。


僕はいきなり話を切り替えることにし、冬休みの予定を聞く。


「突然どうしたの? 一応、冬休みだと日曜日なら空いてるかな~。それがどうかしたの?」

「冬休みにさ、行きたいところがあるんだ。君と二人で……」





















































































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