第51話 橙月見

 現在、見たことのある天上を目を開けて確認する。


 体を起こしてから状況を確認すると、どうやら自分が医療用ベッドで寝ていたことを確認する。


 扉の音がし、誰かが入ってきた。


「どうも、こんにちは。体調に問題はないかい?」

「え、ええと……」


 僕は息を呑んだ。


 なんでかというと、目の前に立っているその人は180センチぐらいあるのではないかと思うほど背が高く、おまけにボディービルダーかというぐらい体格のいい人だったからだ。


 起きて早々に震えるが、よく見ると服装が病院で働く人のものだった。医師だと理解した僕は、返事をする。


「は、はい……」

「お友達が心配していたよ。安静にしていれば、すぐ退院できるから。また様子見に来るよ」

「ありがとうございます……」


 医師が病室をでた所で胸をなでおろす。あの人には悪いけれど、怖かった。


 退院する前に話を聞くと、りょうと話をしている途中で倒れたという。


 この話を聞き、改めて思い出した。橙好味だいだいこのみの姉である橙月見だいだいつきみ。彼女のことを思い出したから、そのショックで心臓に負担がかかったことを。


 彼女も僕と同じような病だった。僕と同じ先天性心疾患でも、薬を飲んでいれば平気な軽い症状じゃない重病だった。


 星には自身ではなく、彼女の心臓が治るように願ったんだ。笑顔でまた会えることを信じて。


 今は元気にしているのだろうか。


 退院した後、学校の登校日になり登校すると、りょうが安心した顔を見せる。


 あかね輝色きいろちゃんには、仲直りしたことを僕から伝えた。


 2人共安心したのか、笑顔を見せてくれた。しかし、心配させた事は話が別らしく、相談しなかったこと。頼らなかったことにものすごく怒られた。


 数日後、僕は学校の昼休みに好味このみのクラスへ行った。


 ご飯を食べているところ悪いと思ったが、クラスの人に呼んでもらい他の場所で話をした。


「話って何?」

「思い出したんだ。君のお姉さん、橙月見だいだいつきみさんのこと」


 僕の言葉を聞いた好味このみは、なぜか暗い表情を見せる。


「随分と時が過ぎちゃったけど、元気してるかな?」


 その言葉に、彼女は目が少し潤んだまま黙ったままだった。


「今度、うちの家に来て。学校の近くだから、住所書いてくる」


 いきなりの誘いだった。彼女はそのまま一旦クラスに戻り住所を書いた紙をくれた。




 ☆☆☆


 休日の朝、電車に乗り50分程の所で紙に書いてあった駅に着く。どうやら天の川駅というらしい。


 降りた後、紙に書いてある地図の通りに好味このみの家へと向かう。


 向かう途中の町並みの印象はド田舎。田や畑が多く、一軒家が多い。道を進んで行くほど、なんだか懐かしい感じがする。


「ここかな?」


 長いこと歩いた後、好味の家らしき所につく。


 インターフォンを押すと、好味ではなく別の人が出たのでここへ来た理由を言い待った。


「はじめまして、ていうのはおかしいかな?こんにちは」

「こんにちは、僕の事を覚えているんですか?」

「ええ、病院で入院してた月見つきみがお世話になったそうで。本当にありがとう……」


 好味このみの母親は、とても若く見えた。いや、正確に言うと若く見えすぎる。


 目の錯覚なのではというほど、目の前の本人にはもしかしたら失礼かもしれないけど、身長が低かった。


 お礼を言われたが、何もしていない。幼稚園児だった僕が、どうにかできる問題じゃなかった。


 何か勘違いしているのではと訂正する。


「いえ、何もできていません! 何もできませんでした。ただ……過去の僕は、彼女の笑顔が好きだった。ただ、それだけだと思います」

「いいえ、夜色やしき君の優しい言葉にあの子は救われていた。笑顔であなたの事ばかり話していたもの」

「……。今、彼女は……どうしていますか?」


 この質問に何故か答えず、「それは家の中で」といいとりあえずお邪魔することになった。


 中に入ると、とても清潔感あふれる綺麗な屋内だった。好味このみは2階にいるということなので呼んできてもらった。


「ごめんね。待った?」

「ううん。さっき来たばかり。あれ? 好味このみのお母さんは?」

「なんかね、変なこと言って出かけちゃった」 


 どうやら出かけてしまったらしく、リビングのソファで2人きりとなる。


「え〜と、お父さんとかいないの?」

「お仕事。だから、2人きり」


 質問したことを後悔する。余計に女の子として意識してしまっていた。


「そういえば、ここで話ってお姉さんの件かな?」

「うん……。落ち着いて、聞いて……」


 真剣な顔つきになる。しかし、彼女の表情から言いづらい事なのか、1回呼吸してから伝えられた。


「お姉ちゃんは……、亡くなったの……」


 伝えられた言葉で一瞬、僕の周りの音が消えた。しかし、亡くなったという事実に対し僕はなぜか涙は出なかった。


 それだけ時が流れたことに、改めて気付かされるのだった。


 聞くところによると、手術による失敗が原因ということらしい。また会えたならどれだけ嬉しかったことか。


「お姉ちゃんは、笑顔だったよ。諦めず頑張ってたよ……。ゆっ君に感謝してたよ」

「そっか……ありがとう。僕は、彼女の力になれてたのかな」

「うん! うちもそう思う!」


 彼女の分まで体が弱くても、必死に生きていこうと決めた。話をした後でも空腹の音が鳴る。


 好味このみと昼食をとった後、月見月見さんのお墓参りを彼女と一緒にしにいった。


 星には願っても叶えてはくれなかったけど、彼女との思い出がある。静かに線香に火をつけて拝んだ。


 2人ともお墓参りを済まし帰る時に、月見つきみさんの聞こえるはずのない声が聞こえた気がした。微笑みながら「ありがとう」とその1言だけが聞こえ、吹く風で消えていくように流れていったのだった。


























































































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