第49話 あの病院で
これは僕が幼少期に入院していた病院での日々。治療も終わり、リハビリに専念していた頃。同じ病室で、僕よりも症状が重い心臓病を患っている人がいた。
家族が面会に来ている時は笑顔で安心させているが、内心では不安なのかいない時は恐怖と不安の顔が伺えた。
「なんでつらそうなの?」
彼女との初めて交わした第一声だった。彼女はいきなり話しかけてくる僕を不審がる。しかし、不安を紛らわしたいのか、今家族が側にいない寂しさから逃れたいのか分からないがその子は口を開いた。
「病気なの、ここの」
彼女は胸の部分を指差す。
「ぼくとおなじだ! 同じところが弱いんだ」
「え、きみも?」
「うん! だからね一人じゃないよ!」
うまく言えなかった僕は、苦しんでるのは自分だけではないことを伝えたかったのかもしれない。彼女と僕が同じ痛みであるはずがない。しかし、共通する病気に苦しむ姿を見て、少しでも言葉で不安を取り除いてあげたいと思い、かけた言葉だった。
力強くかけた言葉が少しでも役立ったのか、彼女は笑みを見せてくれた。力みすぎた僕は、休む為にベッドへと潜る。
それからというもの、彼女と話す機会が僕の楽しみとなっていた。笑顔を見るたびに僕も元気を貰えてる気がした。リハビリもより一層頑張ることができた。
彼女の家族が面会に来た時に知ったが、名前は
この時、両親の他にも
その証拠にあの時、彼女が僕と一緒の幼稚園に通っていることを知らなかった。
お見舞いに来た家族が挨拶してから帰る。
「妹だったらよかった……」
いつも家で家族と元気に過ごしている妹が羨ましかったのだろう。僕も入院している時に、ずっと側にいてほしい。家に帰りたいと何度思ったことか。
彼女の言葉に過去の僕は、今の僕には言えないことをはっきり言ってのけた。
「ちがうよ。その逆だよ!」
「なんで?」
「だって、あの子が泣いてるとお姉ちゃんもかなしいでしょ? だからね、えっと……。ごめんなさい」
もし立場が逆だとしても、姉である
慰めようとした僕だったが、結局言葉は伝わらなかった。これが、幼稚園児の精一杯。
気まずい空気が流れたが、慰めようとしてくれていたのは分かってくれた。「ありがとう」と1言お礼を言われ、また彼女は眠りについたのだった。
数日後、
一方僕は、退院間近。最後に彼女の姿を見てから退院したいと思い、隣のベッドを見に行く。
口元には呼吸を安定させるための呼吸器を装着させられており、医療用ベッドで安静にしていた。
「僕もうすぐでここ出るんだ。だからね、会いたくて来たんだ」
目を開けてこちらの声を聞いている彼女は嬉しそうだった。誰かが側いることで安心するのは、僕がよく分かっていることだった。
「お母さんが絵本よんでくれたんだ。夜空の星にね、おねがいごとすると願いをな〜んでもかなえてくれるんだよ! だからね、僕がかわりに星に
彼女はもう話すことすらできなかったが、目から雫が伝い落ちるのが見えた。
退院した後、僕は星に願いを叶えてもらうために絵本通りに5人の女の子たちを集めた。
そして、星がよく見えるあの丘の公園で、僕は自分の体よりも願いよりも病気に負けないように頑張っている
この想いが、奇跡を起こすことを信じて。
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