第46話 青島涼

 これは俺が幼稚園の頃の物語。情けなくてどうしようもない自身の物語だ。


 両親は共働きで、幼稚園から帰るといつも家に1人だった。裕福でもなければ貧乏でもない普通の一般家庭。まぁそれも両親が頑張って働いてくれていたからだと今では思う。


 小さい頃の俺は、実はやんちゃだった。仲がよかった友達は2人いたと思う。あの頃は、それが悪いことと認識せずいじめをしていた。今ではもう消し去りたい過去。最初の罪とも言えることだろう。


「ここはおれたちが使うんだ!」

「わ、わたしもすべり台やらせて!」


 遊具を独占したり、使っている遊び道具を奪ったり良しとしないことをやっていた。


 でも結局、腹黒緑ふくぐろみどりっていう女の子が毎回止めに来てたけど。


「こらー!」

「げっ! かんきょうの緑だ!」


 あの時は、よく噂になっていたから言っていたが、お婆さんやお爺さんたちのゴミ拾いを手伝っている女の子で認知されたのが腹黒ふくぐろだった。そのせいか、先生たちの話を聞いた生徒たちの間で噂となり、「環境の緑」とあだ名がついたらしい。環境に優しい奴だったからだろう。


 次第に俺は、止めに入ってくる腹黒ふくぐろの事が好きになっていた。強い正義感にいじめを止めに来る勇気。俺に無いものを持っているからかいつの間にか惹かれていた。


 気持ちを伝えられる訳が無かった。いじめで始まり喧嘩で終わる自分のことを好きになってくれる訳がない。


 ある日、気持ちだけでも伝えられるだけ伝えようとした。振られることもあの時は当然過去の俺は覚悟していたのだと思う。ていうか、振られることを分かっていた。


「よう……」

「なに? なんかよう? いじめ?」

「その……」


 何歳でも気持ちを伝えることと言うのは、勇気のいることだった。深呼吸してから、気持ちを伝えようとする。


「お、おれ……」


 しかし、彼女の目に俺は写っていなかった。そう、もうこの時には夜色優心やしきゆうしんの事が彼女は好きだった。


 この頃のあいつは、なぜか女の子ばっかと仲良しになっていた。知っていることは、先生が言っていた心臓が弱いことぐらい。


 俺は気持ちが伝えられないことで、次第にあいつへの恨みができていた。


 ある夜のこと、俺は近くの「星空の下」という丘の公園に星を見に来ていた。


 輝く星は俺の心を癒やしてくれる。しかし、この公園に見慣れた者たちがやってきた。


 その中に夜色優心やしきゆうしんの姿を確認した。


 ここへはどうやら、星空に願い事をしに来たようだった。


 別に隠れることもなかったが、なぜかこの公園にある遊具の中に隠れた。


 暗くても、彼女の姿はすぐに分かった。実際、メイド喫茶で働く彼女を初めて見た時もすぐに分かるくらいだ。あの時に好きな人というのは、本当に特別な存在なんだと気付かされた。


 まぁ、メイド喫茶で働いてるのは予想外だったけど。


 願い事が終わったのか、降りる階段の方へ皆が向かう。


 俺も隠れていたとこからでて、皆が降りている階段のある方へと行く。


 すると階段をゆっくり降りているゆうを見て、気づいたときには俺は背後から突き飛ばしていた。


 その後、逃げ出して家へと帰った。不安が拭えなかった。なんであんなことをしてしまったのかと、幼稚園児の俺が思考を繰り返しても答えが出るはずもなかった。


 その次の日、何事もなく幼稚園にやってきたゆうを見てホッとした。


 幼稚園卒業と同時に、父親の仕事の都合で引っ越しをすることになった。


 引っ越した先は、ここより飲食店やマンションが多い町だった。とはいえ、これでも田舎と呼ばれているのが不思議だった。


 小学校に登校した時はとても緊張したが、それより目を疑うことがあった。


 それは、ゆうも一緒の学校に通っている事だった。しかも同じクラスだった事には驚きを隠せなかったな〜。


 どうやら、俺の事は覚えていないようだ。


 学校生活にも慣れてきた頃、ゆうが心臓発作になったのを廊下で発見し慌てて先生を呼んだ。


 先生が冷静に対処し、救急車で病院に搬送された。さすがの俺も目の前で倒れられると心配する。


 数日後、ゆうが退院し普通に登校。これでもう関わりは無い。そう思っていた。


「き、君が僕を助けてくれたの?」

「え? いや助けたのは先生。俺は先生に伝えただけで……」


 昼休みの時、僕に話しかけてきた。どうやら、助けてくれた人を勘違いしているらしい。


「発見が遅れてたら危なかったって病院の人が言ってた。だからありがとう!」


 親からはあっても他の人に感謝の言葉を貰ったのは、この時が初めてだった。


 お礼を言うのは先生だけで十分の筈だ。この時、俺の中でゆうへのイメージが変わりつつあった。


「僕、夜色優心やしきゆうしん。君は?」

「お、れは……。青島涼あおじまりょう


 これが、ゆうにとっての初めての友達になる事は俺ですら予想していなかった。


















































































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