第36話 腹黒緑
私は
出会いは、陰口を言われてた時かな。
『みどりちゃんってケンカとか多いから、かわいい服とかにあわないよね〜』
『すぐ手がでるしね』
『なんであんな服着てるんだろ』
幼少期、母親が可愛い服を買ってくれた。私は男勝りだったけど、たまには女の子らしい服も着てみたかったのだろう。だけど、他の子から見れば調子に乗ってるとかそういう事を思われたのかもしれない。幼稚園に着ていったら、陰口を言われて泣きそうになった。
そこに、ゆっ君は来てくれたんだ。
『ねぇねぇ、先生から聞いたんだけど君が……。どうしたの?』
『なんでもない!』
『……。なんで泣いてるの?』
『なんでもないって言ってるだろ!』
涙を見られたくなかったのか、あの時は強く当たってたっけな。
『どこかで見たような。あ、この前、いじめられてる子助けてた子でしょ?』
『……うん。でも、ケンカしちゃうから皆に嫌われてるの』
『なんで嫌うのかな?』
『え?』
『だってその子の為に、ケンカになるぐらい怒れるんでしよ? それだけ友達思いってだけなのにね』
私の行動を当たり前のように肯定してくれたあいつは、心の隙間を埋めてくれたんだ。
『ほら、涙でてちゃせっかくにあってるかわいい服だいなしだよ?』
『に、にあう? わたしが?』
『え? にあってると思うよ。君の名前とおそろいで、とてもやさしい緑色だね!』
『な、なんでわたしの名前しってるの?』
『先生にきいたんだ! 色のある名前の人を教えてって!』
恋をする理由は人それぞれかもしれないけど、たぶん誰しもが単純な理由で恋愛に発展するのだろう。
あの後、私は彼に好きになってほしくて、嫌われたくなくて努力した。けれど、なんかいつもの方がいいと言われたとき少しショックだったのは今でも覚えている。
☆☆☆
今の私には好きなひとがいる。幼稚園の頃から変わらずそいつが好きだ。心臓が弱い所や優しい笑みは、過去と比べても変わらないままだ。
私は今日シフトにバイトは入っていない。部活動もしていないから、そのまま帰る。すると、バス停の近くで好きな人の後ろ姿が映る。
「ゆっ君、こんにちは〜」
「?
「ねぇ、き、聞いていい? 私のどこに惚れたの?」
「え? あ! そうか。ごめんなさい!」
私はゆっ君から、メイド喫茶での勘違いを聞いた。初めてのお店でケチャップで文字を書くことが無いためか、勘違いでなぜかは分からないけど私の名前を使われたことを。
「ふ、ふざけんじゃねぇーー!」
「ご、ごめんなさい」
「全くだぜたく。あん時は私の心臓が止まるかとって、何笑ってんだよ!」
「いや、その。やっぱり、素の方がいいよ。バス停で会ったの、
素の方が好きって言ってくれるのは嬉しい。けど、過去の事は、こいつ覚えてねえのかな。
「幼稚園の時は、心臓の弱い僕に協力してくれてありがとう」
「べ、べつにいいよ。そのくらい。それよりもさ、お前はガキの時の頃ってどれくらい覚えてるんだ?」
「う〜ん。実はさ小さい時、星空の下っていう丘に皆で行ったと思うんだけど、その時階段のとこで頭打ったらしくて。そのせいか、幼稚園の頃の記憶が思い出しにくくなってるんだ」
じゃあもう私との過去の思い出は、二度と共有できないかも知んねえってことか。そう思うと、涙がでてくる。
「本当にごめ、ってなんで泣いてるの?」
「うっせえ! お前にとっちゃ些細な事かも知んねえけど、私にとっては大切な記憶なんだ。だから、お前が覚えてなくて悲しいんだ!」
気づけば私は、覚えていてほしかった。出会った時の初恋の思い出だったから。覚えていなくて悲しいと。正直すぎるくらいに言葉がでてしまった。
「泣かないで。せっかく可愛いんだから、涙で台無しだよ?」
「え?」
「前にね、丁度このバス停で君と出会った時。僕はずっとこれまでやりたいことある人や何かに必死になれるものがある人が羨ましかったんだ。体が弱い僕は、運動や血圧が上がることしちゃいけないから。その制限の中で、やりたいこと見つけるのが難しくてね。だから、心臓のせいにいつの間にかしていて、理由をつけてはやりたいことを探すのを諦めていたんだ」
高校生になった彼の知らない葛藤。私の知らない、ゆっ君の人生を知った。
「でも、過去に僕が何かを願っていたことを思い出して、もし願っていることが将来やりたいことならそれをやるのもいいのかなって。でも、もう幼少期の記憶にすがるのは止める。僕のことが好きって言ってくれた人が、過去は過去。未来は未来。今は今しかないんだって気づかせてくれたから。だからね、
彼は彼なりに言葉を選び、私を慰めてくれた。あの頃のゆっ君に囚われていた。今の、これからの彼を見てもっと好きになれるかもしれないのに。
「私、幼稚園の頃からお前が好きだ!」
「え……。君もなの?」
「その様子じゃ、他にもてめえを好きな奴がいるんだな」
「……うん。僕は恋した事無かったから。皆のことよく知ってから返事するって、皆には待ってもらってる。またせ過ぎなんだけどね」
彼は自分なりに皆の想いに向き合おうとしていた。真剣に私達の事を考えてくれていることに嬉しさを感じる。
「返事、待ってる」
最後の1言を残したけれど、この後家がお隣同士であることを知る私なのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます