第35話 メイド喫茶(後編)

 話しながらも目的地であるメイド喫茶に着いた僕達は、席でどれを注文するか迷っていた。


「これは、本当にメニューなのか?」


 一番初めに問うているのは、りょうだった。


「何を言っているんですか? メイド喫茶とはこういう所です!」


 輝色きいろちゃんは妹さんとこういうお店に来るのが好きそうで、流石プロは違いますな。


「じゃあ私は、このくまさんハンバーグで」


 あかねは苦笑いしながら、メニューを見て注文する。先に動いたのが彼女なのがなんか意外だったため、注文するチャンスを逃す。


「じゃあ私とゆっ君は萌萌オムライス!」

「ちょっと! なんで僕のまで?」

「いいでしょ! ここに来たからにはせめて好きなゆっ君にこういう店の良い所と楽しいって所理解してほしいの!」


 好きかどうかは今は関係無いと思う。しかし、まぁ初めての事を体験してみるって決めたんだ。ここは引けない!


りょうは何にするんだ? りょう?」

「あ、ああ。じゃあ、先に喉乾いたからコーラ」


 何か考え事をしていたのか、間をおいてりょうが返事をし注文する。何に悩んでるのかは分からないが、こういうのは自分から話してくれるまで待つほうがいいと思った。


「先に注文していたお嬢様お待たせしましたー!」

「お、お嬢様!?」

「はい〜。お嬢様、こちらくまさんハンバーグになります」

「わー、じゃあさ、」

「ちょっと待ってください。このオリジナルソースにおまじないをしておかけしますので」

「あ、はい」

「では、いきますよ〜。美味しくな〜れ美味しくなーれ。はい。ごゆっくりお寛ぎください」


 こういう仕様とメニュー表をよく見ていなかったのか、あかねは恥ずかしそうな顔をする。


 続いて、注文した僕と輝色きいろちゃんのオムライスが届く。


「文字を書くことが可能となっているんですけど、どう書きますか?」

「文字ですか?」


 文字ってマジで何書けばいいの? こっちは素人ですよ。助けて〜輝色きいろちゃーん。


「はい。ゆっ君大好きですね。かしこまりました」

「ありがとうございます!」


 輝色きいろちゃんは僕の名前を書いてもらっていた。めちゃくちゃ恥ずかしかしい。


「あの〜、何にいたしましょう?」


 僕は輝色きいろちゃんを見て、名前を書けばいいのかと悟る。しかし、名前を書けば好きと断言するようなもの。今は付き合ってすらいないし、返事すら出してない。しかも、誰と付き合うかなんてまだ決められない。この段階で名前なんて書いたら自ら告白したも同然。彼女達に勘違いさせないためにも頭の中をフル回転させ、ある1つの記憶の中の名前を思い出して無意識に呟く。


「……腹黒ふくぐろ

「え? 腹黒ふくぐろってあの腹黒ふくぐろさん? 腹黒緑ふくぐろみどりさんの事? あ、なるほど……。分かりました〜。お名前書いておきますね」

「へ?」


 僕は思考を続けていただけなのだが、気がついた時には名前が書かれていた。


「ふくぐろ、大好き?」


 僕が口にして読み上げると、1人の店員さんがこちらへと向かってくる。


「あ! 来てくれたんですね〜!」


 こちらに来た店員さんは、割引券をくれ文化祭では執事メイド喫茶を担当していたクラスにいた人だった。


「あ、はい。せっかくなので、割引券ありがとうございました」

「い〜え! 注文はもうし、て、いるけど」


 この時、僕のオムライスを見て彼女の言葉が止まった。


「あの……。どうかなさいましたか?」

?」

「な、え?」

!」

「話が見えないんですけど!」 


 僕はまた何かやらかしたのだろうか。いや、やらかしているのは間違いない。だって、僕の事を好きだと言っている2人が鬼の形相でこちらを見ているのだから。


「ちょっと、どういう事ゆっ君!」

「ちゃんと説明してもらうわよ! あたし達に返事するとか言って、オムライスでこの女に告白ってどういう事よ!」


 おかしいな〜心臓が弱い筈なのに最近こういうの慣れてきたのかな。不安はあれど、心臓に負荷が掛かるほどではもう無くなってきてるな〜。辛いな〜。倒れたいな〜。


「だいたい誰よあんた!」

「うん? あっ!よく見たら〜、輝色きいろちゃんとあかねちゃんだ〜!」

「え。あ、えと。何で急に最初のぎこちないぶりっ子やってるんですか?」


 誰かに見られたくないのか、話し方を戻しぎこちないぶりっ子口調になる。


「待って、私達のこと知ってるって、まさか……幼稚園の時の? 覚えてるの?」

「うん! 覚えてるよ〜。久しぶりだね! 私だよ。腹黒緑ふくぐろみどりだよ〜」


 また色の名前である事から、幼稚園の時のメンバーであることが分かる。


「皆落ち着けって、ここ店内だぞ。他のお客に失礼だ。他の日に話し合えよ。俺にはなんの事か分かんないけどな」


 最後に止めたのはりょうの言葉だったが、確かに言う通りなのでこの話はまたの機会にする事にしたのだった。




































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