第32話 文化祭3日目(紫微垣脆音編)

 輝色きいろちゃんとの文化祭デートはとても楽しいものだった。最初に執事メイド喫茶に寄った時は一悶着あったけど、美味しい食べ物や3年生によるダンスパフォーマンスは迫力満点。輝色きいろちゃんは満足した顔で文化祭を終えることができたのだ。


 もう文化祭も最終日、あの時文化祭のデートを言い出したのは紫微垣しびえんさんだったが、最後に回されて涙目だったのを覚えている。今日は僕と文化祭を周ることになっているので、彼女の行きたい所に行かせてあげたい。


 そういえば最後の文化祭の日は、花火も用意されているとか。結構この学校も凝ってることするな〜。


「お疲れ様ゆっ君! えへへ〜」


 いきなり僕の腕にお胸を当てながらしがみつき、この嬉しそうな笑い方。紫微垣しびえんさん本人で間違いない。


「そっちの組はお化け屋敷担当だったんだね。最初に呼びに行こうとしたらお化け姿で怖かったよ」


 あのメンヘラ姿がチラついて怖かった〜。


「うん。おかげで着替えに手間取っちゃった。ごめんね」

「いいよ。で、どこ周りたい?」

「私やってみたいやつあったんだ〜!」

「やってみたいって事は、クラスの出し物だよね? 何がしたいの?」


 今僕は大変後悔している。まさかこんな恥ずかしい事をさせられることになるとは予想していなかった。


「さーて! ここ体育館ステージで行われるのは! 恋人同士で愛してるゲーム! このゲームに参加する5組のうち、1組は何とどちらかが片想いで返事はお預けにされているなんともじれったい恋をしているとか!」


 まさか、こんな企画に参加したい人が5組もいるとは。恥ずかしい。これならあのメンヘラだった頃の紫微垣しびえんさんを相手をするほうが……。


 向かいの椅子に座る紫微垣しびえんさんは、人の目をめちゃめちゃ気にしていた。

 なんでこんな状況でもう限界な顔しているのにこの企画に参加したのか。答えは簡単じゃないか。僕のせい。僕が返事を引き延ばせば引き延ばす程、彼女たちは苦しむ時間が長くなる。だってそうだろう。幼稚園の頃から僕の事を好きだった人が3人もいる。離れていた時もずっと忘れられずにだ。


 待たせてしまっているならこのくらいの恥ずかしさ。僕も男だ! 我慢してみせる!


「さて、ここでルールを説明しておきます! 1組み目から順にマイクを渡していきます。まず先手は女性から! 貴方たちの溢れる想いをぶつけてください! その熱い告白に照れた場合負けとなります!」


 司会者からの説明が終わり、1組目の女性から愛の告白タイムが始まる。僕らは3組目。まだ僕の出番では無いのに、手に変な汗が出る。


「素晴らしい告白でしたね! 続いては3組目の彼女。どうぞ!」


 目の前の彼女は、ゆっくりとマイクを取り言葉にして僕に想いを伝える。


「私は紫微垣脆音しびえんもろね。で、す。幼稚園の時に出会った時は、とても幸せでした! 何よりその頃に見に行った星が綺麗で! 星につい願い事をしてしまいました! 私はずっと貴方のそばにいたい! ゆっ君大好き!」 


 紫微垣しびえんさんの熱い想いを聞き、手汗が倍増。そして、一生懸命伝える彼女の姿につい目が離せなくなっていた。


 観客も大勢の人が拍手のをし、「よく頑張った!」、「若いっていいわね〜」という言葉が多かった。


 彼女の真剣な想いが、体育館の全員に伝染したのだ。


 その後、男性側の告白に移り、僕の番が回ってきたのだが。


「あの、僕達は恋人では無いんですけど」

「そう言われましても、示しがつきませんので。なんなら、感謝の言葉でもいいですよ」

「はぁ、それでしたら」


 僕は彼女、紫微垣脆音しびえんもろねが見せた根性と想いに向き合った。


「僕は、心臓が生まれた時から弱いので、大きな声は出せません。でも、僕は伝えたいことがあります。僕を好きだと言ってくれた人が紫微垣しびえんさんを含めて今の所3人います」


 僕は言う。どこかで聞いているかもしれない彼女たちに向けて。


「その人達は、同じく幼稚園の時から好きだと言ってくれました。本当にとても嬉しく思います。僕には勿体ないくらい素敵な女の子達で、でもまだ返事は出せません! 僕は真剣に彼女たちの気持ちに向き合い、返事を出したいと思っています。もし心臓が弱く、優柔不断な僕のことをまだ好きでいてくれるのなら、必ずその想いに対する返事を返すまで信じて待っていてください!」

「はい……逃げたら許しませんからね」


 僕の覚悟。真剣に悩み、答えを出そうとしていることを告白した。


 こうして、言えなかった事を彼女たちに伝え、最後までゲームを見届けた。もちろん僕たちの組は負けてしまった。けれど、紫微垣しびえんさんの言葉が頭から離れず、幸せな気持ちのまま彼女と最後に打ち上げられた花火を見て締めくくるのだった。































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