第30話 文化祭(紅井茜編)

 文化祭当日、今日から3日間はお祭り騒ぎ。いろんな模擬店や出し物、ステージでのパフォーマンスが楽しめる学校ならではのイベントである。


「バルーンアート作るの何気に楽しかったね!」

「間に合わないと思ってたけど、皆ノリノリだったな。何気に、あはは」

「おかげで今日1日は……あたしと文化祭デート」

「そう、なるな……」


 デートという言葉に全く縁がないし、この言葉が付くだけで恥ずかしくなってくる。


「ほぉら、行こう! 今日だけはあんたはあたしの貸し切りなんだから!」 


 その時の彼女の顔は少し照れ顔で、無意識に僕は彼女だけを見ていた。


「ど、どこから周る?」

「あたしは、軽く何か食べたいかな」

「因みにお目当てのものは?」

「あんたが大好きなもの」


 あかねが指差すものは、僕の大好きな餃子だった。その模擬店の餃子は、野菜たっぷりのヘルシー餃子らしい。僕の好きな食べ物を覚えていてくれたのかと思うと嬉しかった。


「う〜ん、美味しいね!」

「あ〜、幸せだ。羽つき餃子万歳!」

「今度はさ、私が頑張って手作りしてくるからさ。その時は、食べてくれる?」

「本当に!? じゃあそんときはねぎ多めで頼む!」

「本当に餃子好きなんだね」

「うん。大好き!」


 僕が笑顔で言うと彼女はなぜか、僕の顔をじっと顔を赤くしながら動かなくなった。ってなんで? 何もしてないよね?


「じゃ、じゃ、じゃあ次は……あれ!」

「射的か。夏祭り以来だな」

「お、覚えてたんだ」

「そりゃな、お前のりんご飴食べる姿がかわ……。よし、行こう! あははははは!」

「……」


 夏休みの時に行った夏祭り。その時、あかねが食べていたリンゴ飴を思い出し、自爆する所だった。


「射的でどれ狙うの?」

「あたしはね〜、飴玉の入ってるやつ狙う」

「じゃ、僕は、」


 どの景品を狙うかを僕が悩んでいると、途中1人の少年が話しかけてくる。


「姉がお世話になってます」

「え?」


 いきなりの事で驚いたが、姉という言葉を聞き、話ででていたあかねの弟さんだと悟る。


あかね、君のお姉さんから聞いてるよ。弟がいるって言ってたけど、君だったんだね」

「どうも、僕もちょうど彼女と文化祭デートしてたんですけど、はぐれちゃって。だから射的とかしながら気長に見つけようかなと思いまして」


 あかねが言っていたように、弟は落ち着いていた。ものすごく落ち着いていた。慌てず対処するどころか、彼女さんを遊びながら探すという冷静すぎる思考。僕も見習いたい。


「あ、武瑠たける! もう来てたんだ。お父さん達は?」

「父さんは母さんと一緒」

「ゆっ君、紹介するね。この子は紅井武瑠あかいたける私が言ってた中学生の弟」


 あかねが弟さんを自己紹介してくれたので、ついでに僕の自己紹介する。


「改めて、武瑠たける君でいいかな? 僕はお姉さんと一緒のクラスの夜色優心やしきゆうしんって言うんだ。よろしくね」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

「射的しに来たんだよね? よかったら一緒にやってく?」

「では、お言葉に甘えて」


 言動からしてあかねと弟である武瑠たける君は正反対の性格のようだ。


武瑠たける君は何を狙うの?」

「僕はあれを」

「結構小さいから、当てにくいんじゃ……」

「いえ、外しませんので」


 夏祭りの時にやった射的は、本当に偶然小さな髪飾りを落とせた。しかし、今回のもそれくらい小さい。それを武瑠たける君は、狙う動作もせず一発で仕留めた。最後に決めポーズをとって、「それでは」とお辞儀してからどっかに行くのであった。


 因みに狙って当てていたものは髪飾り。どうやら、彼も彼女にプレゼントするために景品を取りに来たようだった。


「クールな弟君だったね」

「だからちょっと苦手〜」


 姉弟というものはこんなにも違うものなのかと、実物を見て想像と全然違うのが面白かった。


 まだまだ長い1日目の文化祭は終わらない。次はどこを周ろうか悩んでいると、何かに困っている生徒を見つけ、あかねが見過ごせずその人に話しかける。


「どうしたんですか?」

「あ、その。もう少しで出し物のファッションショーが始まるんですけど、美男美女で2人ずつ体育館のステージから真ん中まで歩いてもらう事になってて。でも一組の中の1人が腹痛で出れなくなってしまって……」

「それって、あたし達じゃ駄目ですか?」


 いきなりあかねが困っているとはいえとんでもない事を言い出した。


「ちょっと、あかね?」

「だって、皆楽しみにしてるのにさ。それに衣装だって多分一生懸命作ったものだと思う。使われず終わるのは本人たちが辛いと思うよ?」

「はぁ〜、分かったよ。僕も協力する」


 ため息をつきながらも、了承する。その生徒の案内に従い出るはずだった一組に伝えてから、衣装に着替える。


「こんな格好いい服なの?」

「はい。とても良くお似合いですよ?」


 これではファッションショーではなくコスプレのような気がするが、白馬の王子みたいな感じ。上は中が白で上は青の上着だ。


 あかねも着替えが終わったようで、姿を見せる。すると、何ということでしょう。純白のドレスに髪型も変えてポニーテールに。僕のあげた髪飾りもつけているが、より美しさが引き立っていて別人のようだ。


「どう? やっぱり男勝りな私じゃ、」

「とても綺麗だ、あ! いやその……」


 この後、僕達は頬を赤くしながら体育館でステージに上がり歩いた。しかし、観客席の所にあかねのお父さんが闇のオーラを纏って襲いかかろうとするのを全力で首を絞めて止めるあかねのお母さんの姿があったことは僕の記憶から消し去っておく事にしたという。



























































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