第28話 変わる日常

 いつもの学校のある平日の朝。


 いつものように薬を飲み、朝ご飯を食べて学校へ向かう。


 前のように紫微垣しびえんさんがドアの前で待ち構える事はなくなった。もう彼女は、自分で前を向いて歩いていけるだろう。


 登校する途中、当の本人が僕の知らない同じ新谷高等学校にったにこうとうがっこうの生徒と登校している様子を見た。


 どうやら、少しずつ彼女に対するイメージも変わりつつあるようだ。


 僕が紫微垣しびえんさんを見ていたのに気づいたのか、彼女の友達が僕の存在を教える。


 仲良さげな行動を見せながら、紫微垣しびえんさんがこちらへと信号が青になると渡ってやってきた。


「友達と登校しなくていいの?」

「ううん。私の恋を応援してくれていて、頑張りなさいよって言われちゃった」

「そ、そう……なんだ」


 あの暗いオーラを纏っていた彼女の姿はもう無い。けど、感情豊かな所は変わっていないようだった。


 悲しい時は悲しみ、楽しい時は楽しみ、怒る時は怒る。そういった感情がはっきりとした人である事がこの時初めて分かった。


「ゆっ君! えい!」

「ちょ! えっと……。」


 いきなり不意を付き、僕の腕を掴み引っ付いてくる。


「もう我慢しないって決めたもん!えへへ」

「誰かに見られたらどうするの!」

「もう遅いと思うよ?」

「ま、まさか」 


 一緒に腕を組みながら登校しているのを後から見ていたのは、あかね輝色きいろちゃんだった。


「何やってるの? 私というものがいながら」


 ゴキッバキッと手を鳴らしながら怖い表情で見てくる輝色ちゃん。


「朝から何やってんのよ! 紫微垣しびえんさんもわ、私だって一緒に登校もしたこと無いのに。それに、腕まで掴んで、羨ましっ! いや、羨ましくなんか無いんだからね!」


 あかねもこの状況に怒りを見せる。若干私情も入っているような気もしなくもないが。


「という訳で、紫微垣しびえんさんそろそろ」

「嫌!」

「子供じゃないんだからさ」


 離してくれるよう説得すればするほど、僕の腕に胸をわざと押し当ててくる。本当に我慢も何もしなくなって、好きになってくれるようアピールしまくっている。


「あんたね! 私達に無いもの使って! ってあれ悲しくなってきた」

「負けないで! 胸の大きさより中身よ中身!」


 どうやらあかねは胸が小さいことにコンプレックスを持っているようだ。輝色きいろちゃんはそうでもなく、しっかり大事なことを分かっている。


「僕は輝色きいろちゃんの言う通り、胸が全てじゃないから。そろそろ離してください! みんな見てるから!」

「分かった……離す……」


 涙目になりながらも、どうやら理解してくれたようだ。僕も一安心。


「じゃあその代わり、高校卒業したら結婚してくれる?」


 前言撤回、駄目だこりゃ。


「なんでそうなるの!」

「じゃあ、付き合って!」

「いや、説明したと思うけど。返事ならまだできないんだって」

「じゃあ今度ある文化祭でデートして!」

「それなら、まぁってえ!」


 それを聞いたあかね輝色きいろちゃんは、当然の反応をみせる。


「そんなの駄目に決まってるでしょ!」


「そんなの駄目に決まってるでしょ!」


 二人共同じ言葉を並べ、3人共に目が血走る。すると、僕の意見も聞かずに輝色きいろちゃんから提案が出る。


「こうなったからには仕方ないですね。ここは公平に、私達全員と1日ずつ文化祭デートしてもらう他ありません!」


「異議なし!」


「異議なし!」


 さっきまで対立していた彼女たちの心は、たった今僕の意思を尊重せずに決定した。


 順番はじゃんけんをした結果、あかね輝色きいろちやん、紫微垣しびえんさんの順番。僕に拒否権はないらしい。


 ちなみに文化祭の期間は3日間あり、様々な模擬店の出し物、パフォーマンスなど様々。


 果たして、彼女達との文化祭はどうなってしまうのか。



























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