第26話 紫微垣脆音の過去の悲劇
私は
しかし、そんな幸せな生活も長くは続かなかった。お兄ちゃん達はお父さんの背中を見てきたせいか、僕も絵の仕事を目標にしたいと言い出した。お父さんは、自分を見てお兄ちゃん達のなりたいものが決まったことを恥しいような嬉しいような、そんな顔をしていた。お母さんは、夢に向かって頑張っているお兄ちゃん達を見ていつも応援していた。所がある日、お父さんに仕事が無くなった。正確には絵が売れなくなった。理由は、仕事に追われて描き続けたことによるストレスが原因で起こった利き腕の麻痺だった。絵が描くのが生きがいだったお父さんは、絶望した顔になっていた。
一方でその頃には、お兄ちゃん達も遺伝による才能か、それとも努力が実のったのか、学校の美術部に入ったり、絵の仕事を見つけたりしていた。
この時、私はとっくに幼稚園に通っていた。そう、この時にゆっ君と出会った。あの優しい顔が母親とどこか似ていて、私はつきあってと言われて嬉しかったのを今でも忘れたことはない。その時に、お父さんの描き方を真似て描いた風景画を本人に見せた。また大好きな絵を諦めないで描いてという純粋な思いで見せた筈だった。
でも……。
「いたいよ! やめてパパ!」
「なんで! なんで、お前が描けて私は描けなくなったんだ! なんで子供に描けて!」
「いっ! た……い、よ」
絵がお父さんの絵の描き方に似ていた為の嫉妬と八つ当たりを私に向けた。それを見た母親は、私を必死に守ってくれた。
私や母親には、蹴られたり殴られたりした跡が残っていた。幼稚園に行く時は、痣を見られないよう必死だった。この時に、髪を伸ばして、顔の痣も見られないようにしないとと思い始めた。
幼稚園が終わり家に帰った時、悲劇が終わる出来事が待ち構えていた。
父親の死。自殺だった。それを見たお母さんは、うなだれた。
その自殺した現場に遺書が残っており、こう書いてあった。
すまなかったと、一言だけ。
恐らく、自分のしてしまった事を悔いた事による行動だったのではと警察の人から告げられた。
葬式の時、涙は出なかった。亡くなったお父さんの顔をもう一度見たときには、無意識に一言だけしか呟くことができなかった。
「パパ、楽しかったね」
絵を描いていた時が、一番楽しそうにしていたのを思い出したからか、この一言だけしか出なかった。
そして、数日が経つと、ゆっ君から6人で星空の見える丘で星に願いごとしようと言い出した。ゆっ君のお母さんが車を出してくれて、ついたそこは満天の星空の下。
「わぁ〜」
私も思わず口に出るくらい、とても綺麗な光景だった。
私達は輪になり、願い事をした。
ゆっ君だけでなく、綺麗だったあの星空を見れば、皆で願わずにはいられなかったと思う。
星空を見たとき嫌なことを一瞬だけ忘れることができた。それに、心の拠りどころであるゆっ君もいる。
私は願った。大好きなゆっ君とずっと一緒にいられるようにと。
でも彼は卒業後、引っ越してしまった。そのせいか、私は好きな人を失い。心の安定が崩れてだんだん壊れていったのだった。
途中、私も引っ越す事になった。お母さんもいつまでもお父さんの事を引きずってはいられないと思い決心し、高校から近い所に引っ越したのだ。
そして、高校2年生。この時にやっと、ゆっ君との奇跡的な出会いを果たすことができたのだった。
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