第25話 やりたいこと

 お弁当バトルの後の騒動により、先に暴走し暴力を振るおうとした紫微垣しびえんさん。それを止めるために、ボクシング部で鍛えている拳を使った輝色きいろちゃんには、反省文800字詰めを計3枚という形で先生から処分をくだされた。


 あの時の輝色きいろちゃんは腹を殴る時に、紫微垣しびえんさんの名前の方で叫んでいた。何かを思い出したのかのかもしれない。


 今日は休日。僕は家の自室のベッドの上で、紫微垣しびえんさんとの出会ったあの記憶を思い出していた。


 あの時に、幼稚園児の頃の僕は彼女の絵を見ていた。しかし、あんなに滅茶苦茶などす黒い絵ではなく、すごく上手に描かれていた。 


 あの日から現在に至るまでに何かがあったとしたら、あの情緒不安定な部分にも説明がつく。


 自分の考えを整理していると、そこへあかねがここへ来た。


「どうしたの? 約束とかはしてなかったと思うけど」

「約束しないと来ちゃいけないの?」

「い、いや。ごめん」

「冗談よ。意地悪言ってごめん。上がっていい? あまり、あの頃のこと話す機会無かったから。思い出話したくて」

「そ、そうなんだ。上がって。今、お茶出す」 


 あかねを僕の自室へ案内し、早速お互いに分かっている幼稚園の頃の話を始めた。


「僕が思い出したのは、輝色きいろちゃん、あかね、そして紫微垣しびえんさん。この3人の出会った時と僕が母さんに読んでもらっていた絵本「星に願いを」っていう、男の子が大好きだった女の子を生き返らせてほしいって星に願う物語。これだけかな」

「そうなんだ。あたしは、ゆっ君と出会った時のことは前に思い出したの。初恋だった。今になっては、しょうもない理由で好きになったんだなって思うくらい本当に単純な理由であんたを好きになった。そして、高校でゆっ君って知らずに出会った。サッカーの試合の時、あんたが胸を抑えながら、あんだけ友達のために応援できる熱いやつなんだって知ってまた同じ人を好きなれた」


 幼稚園の時の僕、高校生である僕。外見や心臓が弱いから。そんなつまらない理由じゃなく、僕の行動を見て内面を見て好きになってくれたんだと思うと胸がいっぱいになる。


「あと他に思い出したのは、紫微垣しびえんさんの絵ってさ、幼稚園の時はめちゃくちゃ上手だった気がするよ? 賞を貰ってた記憶があるし」

「そう! 僕も思ったんだ!」

「あ、えーと……。近いかな」

「え、あ……。ごめん」


 同じ考えについ前のめりになり、彼女の顔と近くなる。謝った後にすぐさま反対方向を向き、恥ずかしさを紛らわす。


 まだ顔が見れない。会ったばかりの時は、こういうことは無かったような気がする。

 

彼女の顔をこっそり見ると、頬が少し赤く見える。


「な、なんでゆっ君は幼稚園の時、星に何を願ったかをそんなに気にするの?」


 沈黙に耐えきれなかったのか、あかねが真剣なトーンの声で質問を切り出す。


「別に気にしているわけじゃ。いや、少し気にしてるかな。知っている通り、僕は生まれつき心臓が弱い。だから運動することや血圧が上がったりするような事ができない。できない事が多いと、やりたい事がずっと見つからないんだ。もう高校2年、将来の事を考える段階にきている今。趣味も生き甲斐すら見つけられない。だから、小さい頃の自分は何になりたかったのか。何がしたかったのか。それさえ思い出せれば、参考にしようかなって」


これは自分の本心。真実だ。自分はずっと、散歩以外激しい運動やスポーツなどする機会なんて存在しなかった。この心臓のせいで、休みという日が暇でしょうがなかった。今は友達がいてくれるから、少しは暇な時間も減ってきてはいるけれど。感謝しているけれど、僕は趣味や生き甲斐が欲しい。生きていると実感できるものが欲しいんだ!


「やめたほうがいいよ……」

「どうして?」

「だって、成長に連れて生き方や考え方も違ってくるのに。参考になんて、ならないよ」


彼女の言葉が胸に刺さる。考え方を否定される。


「この体になったこと無いから、そんなこと……」

「確かにね、不自由なく過ごしてるよ。私達は。問題はそこじゃないでしょ?」

「何いってんだよ! この心臓のせいで僕は!」


知ったような口で話すあかねについムキになる。


「なんでさ自分の体を言い訳にするの?」

「……本当のことだろ!」

「それは自分がとっくに知っていることでしょ? なんで自分で見つけに行かないの?」

「外じゃ何もできないんだから! 見つけようがないだろ! はぁはぁ」


胸を抑えながら、今までの抑え続けてきた気持ちが前に出る。


「じゃあ、なんで内側からやりたい事見つけないのよ」

「内側って引きこもっていろってことか?」

「なんでそう後ろ向き? そうじゃなくて、部屋でできることでやりたい事見つければいいじゃないってこと! 外の世界だけが全てじゃない! なのに自分は何もせずに探す努力もせず。あんたはね、心臓を理由にしすぎて周りが見えてないだけだったのよ!」


彼女が言い放った言葉は、自分を自問自答させるほどに強い言葉だった。確かにそうだ。僕は運動やスポーツ、体に負荷がかかるものばかりに嫉妬しそれだけしか目に見えていなかった。何もしなかった。


彼女の言葉を認めるしかなかった。


「気にしてたんでしょ? 熱くなれる、生き甲斐になるものを。だったら、過去にすがらないで自分から探そうよ! まだ、なりたいものが見つからないならあたしたちを、友達を頼ってよ!」


今思えば、りょうにさえ将来の事とか、話す機会がなかった。いや、機会を作ることが怖かったのかもしれない。


「ごめんね。僕が間違ってた。参考にはしない。自分でやりたいことは探す。困ったら、あかねたちに助けを求めるよ。さっきは、ムキになってごめん」

「たくもう、分かればいいの!」

あかねやりたいことがあるんだ。手伝ってくれる?」

「何?」

紫微垣しびえんさんを救いたい!」


これが僕の、最初にしたいこと。できることからやって、やりたいことを自分なりに見つけよう。


僕の人生の歯車はここから廻り出すんだ。








































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