第24話 三つ巴の戦い

 いつも通りの学校の日。思えば、家庭科の授業が全ての始まりだった。今日の4限目の授業が家庭科である事を知り、一緒のクラスのあかね輝色きいろちゃん。2人が熾烈しれつの戦いを繰り広げた。


 結果はというと、輝色きいろちゃんの勝利。あかねは料理をしたことが無かったんだとか。


 あかねは諦めきれなかったのか、次は弁当で勝負してと言い出し、料理経験のある僕の家へ休日修行に来たのだった。


「あの子には負けられない!」

「おにぎりぐらいは作れるの?」

「それが……」


 どうやらおにぎりを作るときに、形が上手くできないらしい。本当に料理初心者のようだった。


「ちゃんとね、手に水つけてやってるんだよ?」


 涙目でなんでうまくいかないのか聞いてくる。


「一回、あかねを見てるから実際どう作ってるのか見せてくれる?」

「わ、分かった」


 実際に作るところを見て、どこでつまづくのかを確認する。


「あ……」


 おにぎりを握る時どうしても力んでしまう癖があるのを見て、あかねうしろに回り一緒に握る。


 彼女の手に触れ、形が崩れないよう握る感覚を覚えてもらう。


「ほら、一緒に握るから覚えて」

「え、ちょっと!」

「どうした?」

「……」

「上手くなりたいんでしよ?」

「わ、分かったわよ!」


 彼女の手の温度が伝わってくる。手が震えそうになる。でも、彼女の学びたいという姿勢を再度確認し、協力してあげたいと思った。


「3つできたね」

「ふぁ〜」

「他には何を作りたいの?」

「は、え、ええ〜と」


 おにぎりを3つ握った後、他にも料理を教えた。彼女がなんでそこまでして弁当を作りたいのかは分からない。もちろん、勝負をしているからとか悔しかったというのもあるかもしれないけど。それだけじゃないような気がした。


「今日は……ありがとう。コツが掴めた気がする」

「力になれてよかったよ」


 あかねは心の底からお礼を言い、僕に挨拶してそのまま帰っていったのだった。




 ☆☆☆




 学校の昼休み。僕はいつも通り、自分の弁当を机の上に置き、皆と一緒に食べる。しかし、弁当を机にだした彼女たち2人はこっちを見てその弁当を渡してくる。


「え? 僕が審査役?」

 

 どっちの弁当が美味しいのか食べ比べしてくれと彼女たちは言ってきた。これって、片方しか選んだら駄目なのか。


 輝色きいろちゃんの弁当は、ふりかけ卵のご飯、酢豚、トマトなどの野菜というバランスの良い食べ物が入っていた。


「美味しくできてるね。酢豚も良く出来てるよ」


 僕が感想を言うと、輝色きいろちゃんはニヤケ顔になっていた。誰かに食べてもらって感想を言ってもらうのはやはり誰もが嬉しい事なのだろうと思った。 


 一方であかねの弁当は、僕が教えた三角おにぎりを作ってきてくれた。形はどれも綺麗とは正直言えないけれど、他は簡単に切ってデコれるウインナーやハンバーグ。野菜はきんぴらごぼうやプチトマトにしたようだ。


 問題は味の方。僕は練習したおにぎりの方を先に食べる。次に、ウインナーやハンバーグ、きんぴらごぼうと食べさせてもらった。


「うん、とても美味しい」

「本当? 嘘じゃないよね!」

「本当だよ。頑張ったんだね」

「ごめんなさい。本当はお母さんにちょっとだけ手伝ってもらって、でもおにぎりだけは自分で全部頑張ったんだから!」

「そうだったんだ。でも、おにぎり美味しかったよ」

「良かった! 嬉しい」


 勝負の結果は、二人共気にしていないようで、もしかしたら僕に食べてもらいたくてあんな凝った茶番を。と思ったが、ちょっと2人に告白されて自惚れているかもしれないのでこの思考は破棄させてもらった。


 これで終わりと思っていた最中。違うクラスであるはずの、紫微垣しびえんさんが僕たちのクラスにやってきた。僕の姿を見つけた矢先、机が揺れるほどの大きな四段弁当を机の上に持ってきたのだ。


「は、はい……あ〜ん」

「えっと」


 何当然のように現れているのだろう。なぜこんな修羅場を作り出してしまったのだろう。彼女の行動が、この場のいい空気を壊す。


「誰ですか? この人は」

「例の美術部の人です」

「ああ〜、幼稚園の時に会ったことある3人目の子。この人が……。幼稚園から付き合ってるとか訳ワカメな事言ってる人ですね」


 あかね輝色きいろちゃんは例の美術部であり、過去の僕と繋がりがある人物である事を知っている。そして、あかね紫微垣しびえんさんと僕達のであった時の事を話したのか敵として認識してしまう。


「どうせあれでしょ、私なんかがゆっ君と釣り合う訳がないとか存在が邪魔とかいい空気だったのになんでこんな雌豚がしゃしゃりでてきたのよとか思ってるよね? そうなんだよね? そうなんでしょ?」


 いきなり紫微垣しびえんさんが、何も言ってないのに自分の事を卑下する。しかし、また変なところで気性が荒くなる


「ゆっ君もゆっ君よ。私がいるのに、こんなに女の子と浮気してーー!」


 いきなり怒りだし輝色きいろちゃんの方へ、体のどこに隠し持っていたのか尖った鉛筆を両手の指の間に計八本備え突撃していく。


「この泥棒猫ーー!」

脆音もろねが言うなーー!」


 ボクシング部期待の新人が、いとも簡単に紫微垣しびえんさんの懐に入り一発で大人しくしてしまったのである。


「大丈夫、手加減したから。先生が来たら事情説明しなきゃ」

「ぼ、僕も手伝うよ」


 こうして、騒動は一旦終了した。探している残り2人も紫微垣しびえんさんのようだったらと思うと不安になるのであった。



























































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