第22話 お見舞い

 思えばここ数日、自分にとっては忙しい日が多かったかもしれない。


 バーベキューでは輝色きいろちゃんだけでなく紅井あかいさんまで水着が攻めていたような気がする。


 それに、夏祭り。誘ってくれた紅井あかいさんには、本当に感謝してる。今までの中でりょうには悪いけど、楽しい夏祭りだった。この時、輝色ちゃんの記憶を思い出した。花火は最初っから皆で見えなかったけど、彼女の事も分かったし綺麗な花火だったな〜。


 そして、学校の放課後にベンチで告白されて。最初は偶然だと思っていたのに、今はもしかしたら過去に僕が星に願った事が引き金となって引き合わせてくれているのかもしれない。


 でも、輝色ちゃんには悪いことしてしまったな〜。次に紫微垣しびえんさんの事が気になりだしたんだっけ。


 最初は名前も分からなかったけど、絵の事や噂を聞いて次第に気になっていたんだよな。あんなやばいメンヘラと過去の知り合いだったとは記憶を思い出した時には思わなかったけど。


「……」


 さて、そろそろ今の現状に目を向けようか。


「熱だから寝てないといけないのは分かるけど、暇だな〜。ゲホッゲホッ。はぁ〜」


 入院していた時はなんとも思わなかったのに、今はこんなに静かなのが落ち着かないなんて。友達が増えたからかな〜。まぁ、熱がでたのは慣れないツッコミや心臓への負荷が原因だと思うけど。


 ベッドに横たわりながら、こんな事ばかり考えていると、インターフォンの音が聞こえる。


「あーい」


 自室の2階から聞こえるはずのない返事をし、頑張って下に降りてから玄関のドアを開ける。すると、ドアの向こうにはりょうの姿があった。


りょうか? 今日部活ゲホゲホッ」

「今日はちょうど休みになってな。一人になってるお前が心配になって来たんだ」


 りょうには、だいたい僕の家の事を話している。だからだろうか、どうやら病気のことを心配して来てくれたようだった。


「一応、ポッカリスエットと軽く食えるゼリーもってきたけど食べるか?」

「ああ、上がって」


 りょうがここに来るのも久しぶりかもしれない。小学生の頃や中学生の時はよくとはいかないけど、遊んだものだ。遊ぶといっても、家で少ししかできなかったゲームくらいだけど。


「多分後からお前を心配してるやつが、ここに来るから」

紅井あかいさんと輝色きいろちゃんか?」

「ああ、俺が住所教えといた」

「そういえば、紫微垣しびえんさんがお前に住所聞いたって言ってたけど、本当か?」

「? ああ」


 彼が唯一住所を教えてはいけないやつに教えたせいでで、僕はあんな目にあったのかと思うとやるせない気持ちになる。


「じゃあ、俺は帰るから。早く元気だして学校こいよ?」

「ああ」




 ☆☆☆




 りょうが来てから数時間後。次は、輝色きいろちゃんがお見舞いに来てくれた。


「こんにちはゆっ君。熱はまだ引いて無さそうですね」

「体弱いから免疫力低下してるのかも。とりあえず、上がって」

「はい。お言葉に甘えて。ゆっ君、お昼ご飯は食べれたの?」

「母さんが作り置きしたやつ。ちゃんと食べれたから。案外平気かも」

「夜ご飯は作り置きあるの? 親御さんの帰りが遅いって聞いたんだけど。よかったら、作ろうか?」

「うん。じゃあ、お願いしよっかな」

「お粥でも作り置きしておきます。温めて食べてくださいね」

輝色きいろの手作りか。夫婦みたいだね」

「ゆっ君! ナチュラルに呼び捨て。夫婦みたいだなんて……」


 まだ熱が引いてないからか、変なことを言ってしまったかもしれない。小声で悶ている輝色きいろちゃんを見てそう思った。


 夜ご飯を作ってくれた後、輝色きいろちゃんは僕に一言「早くまた元気に学校来てくださいね」といって帰っていったのだった。




 ☆☆☆




 熱が出て2日目、2人のおかげで良くはなったけど、まだ熱が完全に引かない。今日は休日。安静にしていれば今日中か明日には完治しているだろう。


 そんなことを考えながら寝込んでいると、今日は紅井あかいさんがやってきた。


「こんにちは。近くのコンビニで冷たいアイスとか買ってきたんだけど」

「ありがとう。こんな所で話してもなんだし上がって」

「じゃあ、お邪魔します」

「お昼ご飯まだでしょ? これご飯も一応買ってきたんだけど。ありがとう。まだ食欲ないから自分の部屋まで持ってきてくれる?テーブルあるからさそこに置いといてよ」

「分かった」

「他の皆も来たよ。お見舞い」

「そうなんだ。ね、汗かいてるでしょ?タオルで拭いてあげる」

「そ、そこまでしてもらうわけには……」

「い・い・か・ら。それに、後は、届かない所あるでしょ?」

「わ、分かったよ」


 紅井あかいさんを自室に上げ、どうしてもというので背中の汗をタオルで拭いてくれる事になった。


「前から思ってたんだけど、ゆっ君って肌綺麗だよね。私はサッカーしてるから、日焼けしちゃって。気をつけてはいるんだけどさ」

紅井あかいさんは、そうかもね。僕の場合は心臓が弱いのもあってあまり外に出ないから」

「……」


 いきなり黙り込む彼女の顔は、どこか不満げな顔だった。


「どうしたの?」

「いつまで、名字呼びなの? 輝色きいろには名前呼びなのに」

輝色きいろちゃんは、どうやら幼稚園の頃に会ったことがあるらしくて」

「あの……子も、そうなんでしょ?」

「やっぱりそうじゃないかと思ってたけど、その顔は紅井あかいさ……いや、あかねも幼稚園の頃に僕と会ってるんだね。実は、紫微垣しびえんさんも幼稚園の頃の知り合いみたいなんだ」

「そう、なんだ……」


 僕は彼女に夢の事、引っ越した訳。今分かっていることを全て話した。


「ゆっ君のお母さんが読んでくれた絵本が、全ての始まりって訳ね」

「そう。そのうち、3人が同じ学校にいた。もしかしたら、あと2人も一緒の学校に通っているかも」

「で、輝色きいろちゃんに告白……されたんでしょ? 幼稚園の頃あんたの事好きだったみたいだから」

「うん……でも」

「断ったの? 付きあうの?」

「ど、どうしたの急に……」

「だって! あたしだって、ゆっ君のこと好きだから!」


 あかねもやっぱり幼稚園の頃に僕と会っていた1人だった。その話をした後、彼女も僕の事が好きである事実を告げられる。


「……」


 沈黙の間、輝色きいろちゃんに続いてあかねも僕の事が……好き? 過去に僕が何かしてしまったのか。僕に何が起こっている? 僕は動揺を隠せずにいた。


しかし、質問に対し沈黙なのも気まずい為、正直に話した。


輝色きいろちゃんには、まだ返事をしていない。もちろん紫微垣しびえんさんにも」

「分かった。もう一回確認していい? あたし、まだ諦めなくていいんだよね?」

「う……うん」


似たような言葉を聞いたのは、これで2回目。逆にこういう場合、諦めてくださいと言って諦めてくれるものなの?


「あたし、諦めないから! 絶対振り向かせて見せるから! 覚悟しておきなさいよ!」


 この時、ある記憶が蘇った。



〈幼稚園〉


『まっかちゃんっていうのやめて!』

『だって名前からして真っ赤っかじゃん』


 あの時、あかねは確か男の子にあだ名を言われるのを嫌がってたんだ。それで、僕はそれを聞いて赤色があの子だと思って突っ込んでいった。


『ねぇ、真っ赤って君のこと?』

『だから、あたしは……だれ?』

『ぼく、やしきゆうしん。えっと先生がくれた紙にたしか、あかいあかねちゃん。きれいな名前だね』

『え、あ、ありがとう……』


 突っ込んでいってそんな話をした後、話してた男の子は途中で先生が近くに来たからか逃げたんだっけ?


 ていうか幼稚園の頃の僕、今より強くね?特にメンタルが。



 ☆☆☆



 そして、やっぱりかというもう一人。紫微垣しびえんさんもお見舞いに来た。


「……」

「こ、こんにちは。えへへ。心配して、フルーツを持ってきました」

「……」

「あ、あの、やっぱり来ちゃ駄目ですよね。私なんかが、多分というか絶対私のせいで風邪になって苦しんでるんですよね」

「あ〜もう、ドウゾオハイリクダサイ」

「えへへ」


 まぁ、この笑顔が目の保養と疲れを忘れさせてくれるからいいか。この前は、地雷踏んだからいけなかっただけだし。メンヘラな部分を除けば可愛いもんな。


「ここがゆっ君の部屋か〜。綺麗に片付けてるね。ちょっと待ってて、リンゴ切ってくるから」

「うん。ありがとう」


 どうやら、持ってきたフルーツというのはリンゴらしい。


「はい。切ってきたよ。はい、あ~ん」

「じ、自分で食べられるよ」

「いいから、あ~ん」

「……あ〜ん」


 恥ずかしい。ここにあかね輝色きいろちゃんがいない事を心の底からホッとする。


 その後、挨拶をしてから普通に帰っていった。しかし、僕は知らなかった、彼女が抜け落ちた僕の髪の毛を持って帰っていってることを。












































































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