第20話 メンヘラ度100%

 僕たち二人は、美術部員である一人の女性を外で探した。部長さんから聞くと、風景画を運動場らへんで描いているらしい。


「え〜と、運動場に来たけど、どこに……」

「ねぇゆっ君、その人と会ったことないんだけどさ、あの人かな?斜面になってる芝生のとこ見て」


 紅井あかいさんがそれらしい人を見つけたらしく、僕は指示された所を見てみる。


 風でなびくワカメを抑えながら、いやワカメな髪の毛を抑えながら斜面に座り、スケッチブックか何かで風景を描いているように見える人がいた。


 紅井あかいさんと一緒に、風景を描いていると思われる彼女の元へ行く。なるべく邪魔しないように、うしろからこっそり描いているものを見る。


「ひっ!」


 僕も心臓に負荷が掛かりそうになるくらい、衝撃的で風景の形もない死んだ世界のようなものを見た。声をだしてしまった紅井あかいさんに気づいたのか、描いているのを止め、こちらを振り向こうとする。


「あ、あの……」

「あ、ご、ごめんね。別に邪魔するつもっ!」


 すると、いきなり腕を掴まれ、何か黒いオーラみたいなのがこの状況と彼女の雰囲気に対する不安のせいか見えてしまう。眼科行きたい。


「な、何見てんのよーー!」

「いっ! あ、ああ!」


 さっきまで静かに絵を描いていた彼女は幻覚だったのか。いきなりまるで噴火したような勢いで怒る。それだけでは終わらず、尖った鉛筆で僕に襲いかかり、何もしないという意思表示をしていた両手のうち左手に傷をつけられる。


「ゆっ君! ゆっ君! あんた何してんのよ!」

「ゆっ……君、ゆっ君なの? ねぇ」


 心配する紅井あかいさんの一つの言葉に、彼女は反応した。しかし、その事に反応する暇のない僕は、左手から流れる止まらない血を必死に右手で押さえる。


「嫌だよ〜死んじゃやだよ〜! そうだ! 絆創膏絆創膏」


 手に傷がついたぐらいで死にはしないと思う。しかし、傷をつけた当の本人は、涙を流しながら持っている絆創膏を僕にくれる。


「何なの本当にこの子……」


 紅井あかいさんは、変わる状況に追いつかずそのまま見ていることしかできなかった。


 絆創膏を貼り終わり、あとは保健室で見てもらうしかなかった。


「保健室に行く前に、聞いていい? 君の名前」

「? 紫微垣脆音しびえんもろね。2年A組。ゆっ君とは、幼稚園の時に会ってる。覚えてないの?」

「いや、思い出したよ。君のおかげで」

「えへへ、良かった! 覚えてないとか言われたら死んじゃう所だった」

「あはは、サラッと保健室行く前に心配させること言うね」


 心配させるその言葉を言った彼女の目は、本気の目をしていた。傷をつけられた際、僕はまた記憶を思い出していた。


『……』

『なに、みてんのよ!』


どうやら、同じような状況に陥っていたようだけど現在の僕とは違った。


『あぶねー。その手はせめてさっきみたいに絵をかくときにつかえよな。きみがむらさき! でしょ?』

『なにいってるの? わたしはもろね!』

『絵うまいね!』

『そ、そうかな? えへへ』

『ねぇ、たのみがあるんだけどさ。ぼくとよ』

『つ、つきあうって。私でいいの?』

『うん! 君じゃないとだめなんだ!』

『えへへ。わ、わかった! つきあう!』

『まず星にねがいをしに、ぼくを入れて6人で丘に行かなきゃいけないんだけど。それにくれない?』

『えへへ〜。こんなにあいしてくれる人 初めて〜』

『ねぇ、きいてる?』


 この記憶を思い出したときに思ったのは、あの鉛筆を軽々と受け止めたのは誰だよ。僕かよと思った。


 本当に過去の自分と出会えるなら、本当にそこまでして得たいものが何だったのか。ぜひとも問いただしたい気持ちがより強まるのだった。











































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