第18話 絵

 輝色きいろちゃんには、苦しいことをさせていると自覚している。本人からは「じゃ、それまでは私を好きになってくれるまでアピールし続けるんだから!」と言われてしまった。それもそのはず、幼稚園の頃からずっとあの言葉が言いたくて、でも言えない日が11年続いたのだから。彼女の言葉の返事を早くしてあげれるように、輝色きいろちゃんのことをもっとよく知りたいと思うようになった。


 輝色きいろちゃんにも言ったけど、思い出したのは彼女の記憶だけ。他の4人の記憶はまだ思い出していない。過去の僕が絵本と状況を重ね、願いを叶えようとしていたことは、彼女の言葉で分かった。


輝色きいろちゃんに出会えたのは、偶然や奇跡、運命と呼ぶものに近い。しかし、それが連続して起こるものとは僕は到底思えなかった。


でももしかしたらって思ってしまう。最近よく一緒に昼食を食べたり話したりしている紅井あかいさんも僕と繋がりがあるのではないかと。


そう。絵本にでてくる、赤い星として……。


 もうすぐ体育祭。学校の伝統行事で、小学校や中学校でいう所の運動会みたいなもの。チームは全部で玄武、白虎、朱雀、青龍と4チームある。確か僕たちのクラスは白虎。でも、白のはちまきって汚れが目立っちゃうから茶色か黒になりそうでなんか嫌だな~。


 今日は学校の昼休みを、ホームルームの時に先生から皆に渡された、白虎チーム用の旗の絵の募集用紙に絵を描く時間にあてる。


 同じチームである生徒の絵の中から、一つだけ選ばれるらしい。美術部に入っている人がチーム内にいるだけで、これは有利ではなかろうかとどうしても思ってしまう。


 ちなみに絵は特徴が合っていれば何でもいいらしい。白虎は白い虎のようなイメージがあるからそれを参考に描けばいい。しかし、絵の心得は自分にはない。よって適当に描くことしかできないのであった。


「他の皆はどう?」

「絵って難しいな。俺は他の皆の画力とセンスに期待」


 どうやらりょうもスポーツ以外のこととなると駄目のようだ。絵といえば女性の方が上手く描けるのでは? という個人的偏見も少しはあるのだが残りの紅井あかいさんと輝色きいろちゃんの絵も見せてもらうことにした。


「笑わないでよ?」

「笑わないよ。いや絵上手いな!」

「そ、そう?」


 自分の絵よりも明らかに迫力がある。それに、想像豊かなのかオリジナリティがあると思う。


「私もできたよ!」


 褒められてて嫉妬したのか、紅井あかいさんに対抗意識を燃やす輝色きいろちゃん。


「これ……輝色きいろちゃんが描いたの?」

「そうだけど?」

「……」


 りょうも僕の表情を見て見せてくれと言うので見せると僕と同じ表情を浮かべる。


「よ、よく描けてるね!」

「でしょ!」


 あの出会った時とは違いくだけた口調で話してくれるようになったのはいいけれど、絵までくだけてしまった可愛星輝色かわぼしきいろちゃんなのであった。


「美術部といえば、あの人はどんな絵描くのかな? 僕はまだ見たことないんだけど」

「あ〜、お前が前に言っていたワカメの女子ね」

「あはは、そうそう」

「何なら行ってみるか? そんなに気になるなら今度」


 僕は前に公園で見かけた、あのワカメロングヘアーの女子が気になっていた。不思議なオーラを漂わせるその子は、美術部なのだ。その人は噂の絶えない人らしく、次第にどういう人なんだろうと惹かれていた。もう一度会える機会を伺っていたら、会えないまま夏休みに入ったので自分から会いに行くのも面白いかなとりょうの言葉で思った。


「ねえ、さっきから話してるその美術部の人って誰?」

「え〜と、前に僕が散歩してたら、公園で絵を描いてるのを見かけたんだ。制服がこの学校のものだったからりょうにも聞いたんだけど、名前までは分からなくて。で、今度一緒に放課後開いてるときにでも美術部の活動場所行ってみないか? って一緒に話してたとこ」

「ふぅ〜ん、あたしも行ってみていい? 今週だったら部活ない日あるからさ」


 どうやら紅井あかいさんも話を聞いて気になってきたらしい。


「あ、でもその子の噂みたいなの聞いたよ?  どす黒い絵しか描けないって、美術部の先輩か同級生が話してた」

「逆にどんな絵か気になるな」

「私も気になってきたから、行くときはついて行っていい?」

「いいよ。もちろん」


 こうして今度の空いている都合のいい放課後、みんなで集まって美術部の活動を見に行くことになったのだった。


















































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