第17話 2度目の告白

 夏休みが終わり始業式も終わり、二学期に入った。


 時間が進む限り、いつも通りじゃなくなる。

 

 例えば、小学校の時にりょうに会い、一人きりじゃなくなり僕が心臓が弱いのを知っても一緒に居ていいと言ってくれたように。高校2年になってからは、初めて女子の友達ができたり。またある時は、幼稚園の時に出会った彼女達と知り合いだった事を知ったり。


 そして……。


「私怒ってるんだよ? 勝手に別れの返事もせずに、引っ越しちゃって」

「ごめんね。輝色きいろさん……」

「き・い・ろ・ちゃん! 花火の時は幼稚園の時のように呼んでたじゃん!」

「わ、分かったから、心臓に悪いから……そのボクシング部で鍛えてる拳構えるのやめて」


 僕は今、皆が帰った放課後の学校にあるベンチで輝色ちゃんと話していた。あの夏祭りの花火が上がる前の時間。あの時に幼稚園で会い、夢にでてきた1人が輝色ちゃんであることを思い出したのだ。


「で、なんで引っ越したの!」

「僕も最近知ったんだけど、母さんに聞いたらあそこの病院だとよく効く薬も無いらしくて。だから、この町の病院を医者に薦められてここに引っ越したってわけ」

「待って。そもそも何でこっちに引っ越してきたの知らなかったの?」

「多分いつの間にかこっちに慣れちゃって、そのまま成長したこと。それに、引っ越した事

1度も親に聞いたことが無かったからじゃないかな? あと、あの頃は病院行くとき多かったから移動しても違和感無かったんだと思うよ?」

「じゃあ、仕方ない。引っ越したのはいいとして、引っ越しする前に何でお別れ言わなかったの?」

「そこは僕も分からない。幼稚園の頃の記憶が無いんだよ」

「無いってどういう事?」

「ごめん。言い方が悪かったよ。なんでか、思い出せなかったんだ。輝色きいろ……ちゃんのことは、君が言った言葉を聞いた途端いきなり思い出して」

「それ以外は? 何も思い出せないの?」

「思い出したというか、夢でなら記憶の一部と思うやつを見たことあるんだけど」

「夢?」

「うん。夢で見たのは、母さんが僕に読んでくれた絵本の内容。あと、最初に見たのは5人の女の子」

「待って、絵本ってなんのこと?」


 僕は母さんが読んでくれた絵本の内容と幼稚園の時の僕の行動の話も、輝色きいろちゃんに偽りなく話した。そうすることで、何かが分かるかもしれないと考えたからだ。


「え、じゃあ。いや、あの日最初に話しかけたのは私。なるほど、そういうことだったのね。だからあの時、私の名前見て喜んでたのね……」

「物語通りにして、願いを叶えようとしてたみたいなんだけど。協力してって頼まれた?」

「あ、確かに頼まれて、私を入れた女の子5人くらいが集まってゆっ君がお願いしてた! でも、ゆっ君の願いまでは」

「ありがとう! ずっと気になってたんだ! もしかしたら、途中から本当に夢かもとか。よく、夢っていうのは自分の都合のいいものや精神状態を映すって言うからさ」

「あ〜、でもその夢っていうの変じゃない? 何か正確すぎるし、普通少しぐらい覚えててもいいはずなのに。もしかして、幼稚園の時にどっか頭かなんか打って記憶が飛んだとか」

「それすら分からないんだ。母さんにまたなんか聞いてみるよ」

「うん。あとさ、その……」


 また気になる新しい情報が彼女のおかげで手に入り満足していると、輝色きいろちゃんはまだ聞きたいことがあるようだった。


「他に思い出してない? 私の事」

輝色きいろちゃんの事? う〜んと、花火の時に思い出したやつが新しいかな」

「え?」

「確か、手を差し伸べた時に『あのときとおなじだね……』って。小さい頃の君が僕のこと大好きって言ってた。あ! もちろん幼稚園の頃だから、友達としてだと分かってるよ!」


 思い出した僕は懐かしみながら話す。すると、彼女の顔は真剣なものへと移り変わった。


「そのままの意味だよ……」

「え?」

「私は、ゆっ君が好き! 多分あの時の記憶が無くても、好きになってたよ。心臓が弱いのに、あの花火の時探しに来てくれて。心を暖かくしてくれる言葉をかけてくれる。どんな時でも困っているとき手を差し伸べてくれる。そんな、優しいゆっ君が好き! 大好き!」 


 幼稚園の時からずっと僕の事が好きという言葉に、自分自身が信じられなくなっていた。彼女が僕に向ける眼差しは、あの幼稚園の時と何ら変わらない。真っ直ぐで正直な目。この告白に、どれだけの時間と想い、決意が込められているかが分かる。


 でも……。


「ごめんなさい。もう少し、考える時間をください!」

「理由、聞いてもいい?」

輝色きいろちゃんの告白はすごく嬉しいよ。告白なんて、1度もされたこと無かったから。でも、それ以前に異性の人を好きになった事無くて。恋愛した事なくて。だから、それが理解できるまで待ってくれないかな?」


 情けない。でも、恋愛感情も無いのに告白を受け入れる方が最低だと思った。だから、彼女の想いに真剣に向き合いたい。


 僕はこの時、初めてそう思った。


 11年分の告白を保留にするのは、正直自分も重くて辛い。


 でも、それでも……。


「まだ私、振られてないんだよね?」

「うん」

「まだ、チャンスあるんだね。分かった。返事ずっと待ってる。約束だよ! 逃げずにちゃんと答えだして聞かせてね!」


 差し出された小指の契りは、とても重く責任重大なものになった。














 























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