第13話 バーベキュー(後編)

「はぁ〜、すごく怖いものを見た〜」


 僕は敵に回してはいけないのは、親バカであることを胸に刻んだ。どの親御さんもあんなだったら、恐ろしくて想像すらしたくない。今回で、夜色優心やしきゆうしんは知識をつけたのだった。


 今は川遊びも終わり皆が着替えている間、僕と紅井あかいさんのお父さんとでバーベキューの支度をしている。


「炭に火をつけてっと」

「お父さん」

「てめえにお父さんと呼ばれる筋合いはない!」

「え、ええと……。紅井あかいさんの! お父さんは、バーベキューよくやるんですか? 手際がよかったので気になったんですけど」

「大学生の時に、仲間とよくこうやってバーベキューしたもんさ」

「そうだったんですね」

「皆を呼んで、もう肉とか焼くから」

「分かりました」  


 準備が出来たことを皆に知らせるため、着替えているテントに向かう。


「おーい。もうバーベキューできるって」


 テントにいる皆に声をかけるが、返事がない。一旦バーベキューの所に戻ると、りょうが先にいたので後は可愛星かわぼしさんと紅井あかいさん2人だけのようだ。


 しかし、明らかに遅いと思った僕は、もう一度テントに行き中を確認する。


 すると、着替え途中の彼女達を見てしまった。


「きゃーー!! 変態!」

「きやーー! エッチ!」




 二人揃って同じ悲鳴を上げて物を投げまくる。タオルにキャンプ用具の予備品、そしてなぜか狸の置物。驚いた僕は、避けるたびに鼓動が早くなる。


 その後逃げようとするが、服がはだけていた彼女たちの姿を直視したがために鼓動がさらに早くなる。


 僕は胸を抑えながら倒れる。そこへ、着替えを済ませた彼女たちが倒れている僕を見つけた。


「え、ゆっ君! ゆっ君!」

「ゆっ君、ゆっ君!」

「こうなったら私が人工呼吸を!」

「いや私が!」


 争う声が聞こえるが、急に僕の耳から叫び声は消えしばらくすると僕は目を覚ます。


「僕、助かったの?」


 誰かが応急処置をしたのか、どうやらなんとか生きているようだ。


「よかった! ごめんね物投げたりして」


「大丈夫だよね! 生きてるよね!」


 目の前には謝っている可愛星かわぼしさんと涙目な紅井あかいさんの姿があった。そしてその側には、りょうの姿もあった。


「たく、何回心配させんだよお前は」

「あはは、ごめんなさい……」


 謝ったあと、口元に僅かながら変な感触があった。もしかしたらと思い、彼女たちに気になっていることを聞く。


「もしかしてさ、どっちかが人工呼吸したの?」


 この質問に、僕以外の皆は沈黙したままで動かなかった。よく見ると、暑さのせいなのか皆変な汗が出ている。


「じゃあ、りょう?」


 彼女たちでなければ、親友であるりょうしかいまいと思ったがこれも違う。


「え……とじゃあ……」


 頭を過るのはただ一人。


 そう、最後に戻ってきた紅井あかいさんのお父さんしかいないのだった。


「かっぺっ! 娘の唇はそう安くねえんだよガキ。元気になったんなら、バーベキュー始めるぞ!」


 この真実を知った際、口元に触れたと思われる髭の感触が蘇ってきたという。




 ☆☆☆




 改めて、バーベキューを再開した僕たちだったのだが……。


「はい、ゆっ君! あ~ん!」


「はい、私のもあ~ん!」


 こんな具合に彼女たちが、僕の口にわんこそばの如く野菜や肉を運んでくるのである。


「あのみんあどふしたの?」


 食べ切れてない僕は、何を話しているのか何を話しているのか自分で話しているにも関わらず聞き取れなかった。


「幸せもんだなゆう


 親友であるはずのりょうは、助けるどころかゆっくりと味わって食べながら、他人事のように祝福した。


 ちなみに、りょうの隣で殺意を持ちながらこっちを睨んでいる紅井あかいさんのお父さんは、自分の持っている箸を握りつぶしていた。


「もう、ふぃあーー!」


 自分でもバーベキューで分けの分からない争いに巻き込まれた結果、彼女たちの楽しそうな笑顔と、後で殺すと顔面に刻まれている紅井あかいさんの暗殺者お父さんの姿が自身の思い出の1ページとして刻まれたのだった。






































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